小川製作所ブログ
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町工場は「人」にしかできない仕事を核に

 

機械化の先に人手不足が待っている?

 

現代は、AI(人工知能)やロボットの発展が著しく、製造業においても様々な作業がコンピュータ制御の工作機械に取って代わっています。10年から20年先の未来には、人間の仕事の半分以上が人工知能によって失われるという説もあるほどです。では、製造業ではこれかから人が余って大変な時代に入るのでしょうか。

実はその反対で、現在、世界の製造業の最大の課題となっているのは「人手不足」です。機械化が進んで人手不足とは皮肉ですが、最先端の技術を持ち、世界最大の製造産業を擁する米国でさえ、今後200万以上の人手不足が生じると見込まれており、状況はかなり深刻です。 なぜか。一つには熟練工と言われる職人の高齢化と若者の製造業離れです。

機械化の進展は単純労働者を置き換える一方、実はこうした熟練工を必要とするのですが、その数が絶対的に足りなくなることが予想されています。

例えば米国では、工作機械や部品加工を行う労働者の75パーセント近くが45歳以上であり、35歳未満の労働者は2パーセントしかいません(米国労働統計局)。若い人が製造業を離れ、熟練工が高齢化する問題は、日本だけではなくアメリカをはじめとした先進国に共通したものとなっています。

コンピュータ制御の機械が全く人手を必要としないのであれば良いのですが、そうはいかないのが現代のものづくりの難しいところです。機械化が進むと熟練工が必要となる理由を、切削加工の現場の仕事のやり方を見ながら、以下に具体的に説明します。

 

NC工作機械にも「職人」が必要

 

切削加工の職人の方に言わせれば、汎用機をきちんと扱えない人には、NC工作機械(コンピュータ制御の工作機械)は扱えないそうです。自動化といっても、コンピュータで全ての作業を自己完結できているわけではなく、様々な微調整や設定を人が行う必要があります。したがって、汎用機の知識や経験なしには、正確な作業を行うのは難しいという意味です。

コンピュータを使わない汎用フライスや汎用旋盤といった加工は、職人の腕の良し悪しで製品の品質、出来栄えが大きく左右されます。

これに対し、NCフライスやマシニングセンタ加工は、NCプログラムと呼ばれる加工データにしたがって加工しますので、材料さえ正しくセットすれば基本的には製品の品質は変わらないと思われがちです。

確かに機械は、プログラムにしたがって自動で動き、加工しますが、そのプログラムを作成し、材料を機械にセットする段取り作業を行うのは、今のところ「人」がやるしかありません。 しかも、この段取りの良し悪しが、製品の品質や出来栄えに大きな影響を与えるということであれば、NC工作機械にも「職人」が必要なのです。

 

実はこんなに大変!NC機のセット

 

具体的に見るとわかりやすいと思います。ここでは、NC工作機械に取り付ける素材やエンドミルのセットの作業を見てみましょう。

重要になるのは、素材の向きや位置、エンドミルの径や長さなどの状態です。想定した理想的な条件に対して、どれだけ精度良くセットできるかが大切で、この段取りによる誤差が、製品の出来栄えに非常に大きな影響を与えます。例えば、素材の位置を0.1mmずれてセットしてしまったとすると、加工した形状もある部分だけ0.1mmずれる事になります。段取りの精度が、そのまま製品の精度に反映されるのです。

具体的なプロセスについては、本記事の末尾の参考コラムをご参照。

この素材やエンドミルのセットは、1回で済むことは少なく、大抵複数の工程を必要とします。例えば、以下の事例では、四角い形状に、段差があったり、窪み(ポケット)があったり、穴が開いてたりしますが、このような形状を作るのに、いくつもの工程が必要となります。

具体的には、以下のプロセスを経ますが、素材をコロコロ回転させながら、加工する感じです。そして回転させるたびに上記のような段取りを毎回行います。マニュアル通りにやれば誰でもできるものであれば簡単なのですが、扱う素材や作業環境(温度や湿度)など、個別の様々な変数を調整しながら、作業する必要があり、熟練工の技術が必要とされます。

 

 

町工場は「人」にしかできない仕事を核に

 

今後も、日本をはじめ、世界的にコンピュータ制御の機械の導入は急速に進んでいくでしょう。中国におけるロボット導入も、累乗的に増えていると聞きます。一方、機械を運営・管理する技術者が大幅に不足する事態が予想され、世界の製造業の発展を阻む要因とになっています。熟練を要しない単純労働者であれば、移民などを活用して人手不足を補うことができるかもしれませんが、きちんとした製造ノウハウを持ち、工作機械を理解し、それを管理・運営できる人材はすぐには育ちません。

アメリカでは、こうした熟練工の知識やノウハウをAIを使った機械学習で、機械に覚えさせようという試みもされていますが、なかなか簡単ではないようです。

翻って町工場の立場で考えると、私たちの進むべき方向性や存在意義が見えてくるようにも思います。町工場が持っている技術やノウハウは、今後、ますます希少なものになっていくでしょう。したがって、町工場がこれから発展できるとすれば、それは機械や設備への投資競争ではなく、まさに「人」にしかできない仕事を核にすることが重要だと思います。「人」への投資こそが、次世代の町工場を切り拓く鍵ではないでしょうか。

 

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参考コラム:素材・エンドミル設定の具体的な方法

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(1) 素材の据付・仮締

治具板に取り付けた素材をテーブルに置き、クランプを仮締め。

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(2) 平行出しインジケータを使い、素材の向き(X方向)が機械軸と一致しているか確認しながら、ハンマーなどで叩いて微調整。

※ インジケータは微小な表面の凹凸を感知できる目盛のついたセンサ。
 0.01mmや0.001mm単位などの感度で検知可能。

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(3) 治具板の固定

レンチでクランプを本締めする。強すぎず、弱すぎず、絶妙な力加減とバランスが必要。

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(4) 加工原点の設定

加工するための機械上の原点位置を設定。ポイントマスターという道具を使い、ワークの側面に触れていき、原点とすべきポイントを割り出す。割り出したポイントを加工原点として機械に入力。

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(5) エンドミルの取り付け、測長

加工で使うエンドミルを機械に取り付ける。エンドミルは短いものから長いものまで色々な種類、サイズあり。実際に取り付けたエンドミルの長さは、機械上で測定して入力。

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