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健康を守る!から始まる女性が活きる町工場のつくり方

最高業務責任者も工場長も若い女性

当社(有限会社小堀加工所)は、従業員11名のうち、10名が女性です。曲面へのシルクスクリーン印刷を事業にしていますが、会社運営の最高責任者と工場長は、2名の優秀な若い女性に任せてあり、業務のあらゆる面において、ウーマン・パワーに支えられています。

手先の器用さ、集中力、丁寧さ、粘り強い根気など、高い水準を要求される仕事ですが、当社の女性スタッフはそれぞれの長所を発揮して、ものづくりに励んでいます。その成果は、お客様からの高い評価として現れており、それが皆のモチベーションにもつながる好循環を生み出して、次へと繋がっています。

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印刷業は危険と背中合わせ 

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製造業で女性が働くことは決して珍しいことではありません。しかし、戦前の野麦峠のような悲惨な状況ではないにしても、製造業の現場は、必ずしも女性が働くにふさわしい環境であるとは限らないのが現実です。

特に印刷業は、日々インキと溶剤を扱っています。中には人体に悪影響のある薬品が含まれていることもあり、工員は常に健康を害するリスクと向き合わざるを得ません。特に女性にとって、その健康への影響は、本人だけの問題に止まらず、お子さんなどのご家族全員に及ぶ危険があります。

安全・安心の確保は零細にとって負担が重い

だからと言って、「職場の安全は、経営者の重要な責任だ」というようなことを大上段に振りかざして論じるつもりはありません。私も、いわゆる零細企業を経営するものとして、国の基準に従い、職場に適した環境づくりをすることの難しさや、厳しさは痛いほど理解しているつもりです。

例えば、国の定めでは、有機溶剤・特化物該当溶剤を扱うためには、取扱主任技術者の資格を持った責任者を常駐させなければなりません。当社では、もちろんルールに従っていますが、こうした資格者を雇う経費は、小さな町工場にとっては決して楽な負担ではないのです。

一方、零細であるからといって、働く女性の大切な健康を犠牲にするのは、決して許されることではないと思っています。

では、難しいやりくりの中で、小さな町工場が安全・安心を確保するには、どのようにしたら良いのでしょうか。当社が、数多くの失敗を経て辿り着いたシンプルな結論は「スタッフと話し合うこと」でした。

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小堀加工所

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話し合いから始まる改善

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トイレの改善から始まった

何か大袈裟なことではなく、むしろとても小さなことから始まりました。最初に取り組んだのがトイレの改善。男女兼用で使っていますが、女性にとって、清潔なトイレがあることは、それだけでも安心につながるもの。衛生面においても、印刷業というホコリを嫌う職場にとっても、非常に大切な要素です。トイレの衛生確保をどうしたら良いか、話し合いました。

すると女性たちから出てきた提案は「トイレ掃除は、女性スタッフが責任を持って綺麗に掃除をする」というものでした。しかし、「条件がある。男性は、便器に座って小をすること。」つまり、余計なところにハネないようにして欲しいということです。

男性諸氏にとって、これは極めて異な提案で、自分たちでは思いもつかないものですが、これでトイレが清潔に保たれるのであれば、多少の不便は我慢できるというものです。

自分たちでできる小さな改善

結果的に、トイレの壁紙がピンクになるというオマケまでつきましたが、自分たちで掃除し、清潔にするというルーティンが定着しました。何よりも、自分たちで考えて改善できるという体験は、その後の会社の運営に大きな変化を与えてくれました。

「たかだかトイレ掃除ではないか」と思われる方もいるかもしれませんが、会社を立て直そうと試行錯誤していた時に、こうした方法で、お金を使わずに改善ができることを知ったことは、本当に心を励ましてくれました。

休憩スペースも新たに改造

次に取り組んだのが、スタッフの休憩スペースです。シルクスリーン印刷は集中力が必要とされる仕事ですし、女性の体調は変化しやすく、健康面や安全面からも休憩が必要となります。しかし、小さな空間に「ところせまし」と、印刷機や乾燥機が配置され、さらには印刷する製品やインキなどの在庫が置かれており、ゆっくり腰を落ち着かせて休憩するための場所は、長い間、ありませんでした。

話し合ってみると、これも意外な提案が女性スタッフたちから出てきました。在庫の箱などをおいていた小さな窪みのようなスペースがあるのですが、そこを自分たちで改造するというのです。

実際に改造すると、少年の秘密基地のようなスペースなのですが、快適に座って休める場所ができました。コージーな場所に仕上がり、やはり話し合いで、ちょっと贅沢なインスタントコーヒーを一杯50円で飲めるようにして、スタッフが安心して休憩できる空間が出来上がりました。

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若い女性に会社の運営を託す

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こうしたことは、小さなことかもしれませんが、スタッフたちの間で、自分たちで会社を良くしていこうとするモチベーションが少しずつ育ってきたのがわかりました。3年前に思い切って20代の女性を工場長に抜擢できたのも、その工場長が期待に応えて大きな成果を出してくれるようになったのも、そんな小さな改善で得た自信の積み重ねのおかげだと、今は考えています。

3年前に抜擢した女性の工場長は、今、会社の運営全体に責任を持つマネージャーに昇格し、新しい工場長もやはり優秀な技術者に育った若い女性を登用しています。彼女たちの絶え間ない努力のおかげで業績も改善しつつあります。

改善が改善を生む循環

小さな努力の循環は、安全・安心への新たな投資を行う余力も生み出してくれます。

今年8月には「局所排気装置」を取り付けました。これは、インク・溶剤などから出る有毒な空気を1箇所に集めて社外に排出する装置です。各印刷機と乾燥機の出口の上にある天井部分に、換気扇を8台取り付けて一箇所から屋外に排気するもので、印刷工場内に溜まったよどんだ空気を排気することができるようになりました。

また、健康診断も話し合って、有機溶剤健診や特化物健診などの特殊項目を加えた健康診断を会社負担でスタッフが受診できるようにしています。

小さいからこそできる組織と人づくり

一昔前までは、町工場における工員というのは、言い方は悪いですが、「使い捨て」として見られていた時代もありました。しかし、これから小規模な工場が、その強みを生かして発展するためには、人材がますます大切になってくると実感しています。

当社では、女性が中心になって会社が支えられていますが、少子高齢化が進む中では、高齢者も含めて、一人一人の人材が活きる環境を作ることが求められていると思います。

これからも、小さいけれど、小さいからこそできる組織と人づくりで、頑張っていきたいと思っています。

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