なぜ見積金額に3倍の差があるのか

見積もり金額の違いに困惑?

企業がその生産工程の一部を外注したり、部品を調達したりする場合には、その外注先や調達先に対して「見積もり」を依頼することになりますが、出てきた見積もり金額を比較すると、各社間で大きな開きがあることが多いと思います。一番低いところと一番高いところには、倍以上、ときには3倍や5倍の開きがあることも珍しくはないでしょう。

企業担当者から見れば、こうした違いに接して困惑するでしょうし、高い金額を提示した企業に対しては、ちょっとした反感さえ覚えるかもしれません。グローバルな市場で過酷な競争を戦っている企業にしてみれば「こんな価格設定だから、日本の製造業は新興国に負けてしまうのだ」といった愚痴の一言も言いたい気持ちになるでしょう。

しかし、こうした開きがある見積もり金額の裏にどのような背景があるのでしょうか。実は、ここに今の製造業の変化の方向性と新たな競争原理の兆候が見え隠れしている可能性があります。そのことを見過ごすのであれば、企業として思わぬ落とし穴にはまらないとも限りません。

見積もりはどう計算されるか

弊社のような町工場の多くは、受託加工業として、お客様から図面を預かり、見積金額を提示することで個別案件が始まります。価格設定は、どのビジネスにおいても核心となる課題ですが、町工場においても「どのように妥当な見積金額を提示することができるだろうか」ということを常に考えなくてはなりません。

一般的に、ある加工品の図面に対しての見積金額は次のように算出されます。

見積金額 = 材料費 + 外注費 + 加工賃

町工場の経営にとって要となるのは加工賃の部分であり、これは「加工工数×時間チャージ」というように分解することができます。一見すると単純ですが、ここに町工場の経営の全てが凝縮されています。

例えば、汎用旋盤などの機械を使ったアナログ的な金属加工の場合、職人が加工する時間そのものが加工工数であり、時間チャージにはこの職人が稼ぐべき対価と町工場としての固定費や利益が加算されます。町工場の職人は設備を非常に大切にしますので、減価償却はとうに終えて、50年以上も使っているケースもザラですので、基本的には職人の人件費と利益が時間チャージとなります。

一方、NC 加工機のような自働機械のように、比較的大掛かりな設備投資を必要とする工場では、職人の工数が少なくなる一方、機械の稼働工数×機械の時間チャージが加わります。また、固定費としての減価償却費もあります。

汎用機械を使った方が安く、NC機械の方が高い、あるいはその逆である、などと簡単に一般化することはできません。どのような形状、数量、納期なのか、様々な変動要因に基づき、最適な方法が選ばれ、価格に反映されます。

見積もりに違いが出る3つの理由

各町工場にはそれぞれの特徴があり、得意分野での競争力を高めるように人員や設備などを最適化させています。実際の案件の適用においては、微妙な得意分野の違いが大きな価格差となり、どの作業をどこに頼むかによって、3~4 倍の価格差が生まれる可能性があるということです。

ここで大事な点は、見積もりの開きは、必ずしも見積もりを出す受注側に課題があるだけではなく、見積もりを依頼する企業が、その外注先や調達先の状況を十分に把握していないところにもあるということです。「金属の切削加工」と言っても、その内容は千差万別です。そもそも発注側が、工程や工数に関する理解が不十分であることも影響しています。

私の経験では、見積もり金額に大きな違いが出る要因には、町工場側の立場でみると、以下のようなことがあると思われます。

  1. 見積りの前提条件(レベル感)が、十分に共有できていない
  2. 過去の案件で過度な品質要求があり、警戒されている
  3. 要求レベルが高すぎて、受注側での工数やリスクの正確な見積が困難

それぞれについて、以下に簡単に解説したいと思います。

前提条件が共有できていない

見積もりの前提条件を共有することは非常に大事です。注意すべきポイントや「隅R は、どの程度必要か」といった加工の内容に踏み込んだ部分まで十分にすり合わせができていると、精度の高い見積もりが可能ですが、図面だけで、他の条件は一切開示がないまま、見積金額を要求される場合には、正確な見積算出が難しくなります。

基本的には、正確な見積もりを出すためには、図面と以下の情報が最低限必要となります。

  • 手配数量、リピートの場合はロット数
  • リピート性の有無、頻度
  • 請負の範囲(図面の内容すべてなのか、一部なのか)

手配数量は見積金額に大きく関係します。同じ部品を製作する場合でも1 個製作する場合と、10 個製作する場合では、1 個当たりの作業工数が変わるため単価が大きく変化します。当然、1 回あたりの手配数量が増えるほど単価が下がります。

こうしたことは、製造業に関わるものとしては実に初歩的なことなのですが、残念ながら、その初歩的なことさえできていない企業が非常に多いのが実態です。

過度の品質要求

また、過度の品質要求が続く先には、町工場の経営者は警戒するようになります。

たとえば、通常では問題にならない程度の傷をあげつらい、何度も作り直しを要求するところや、公差への確約ができないという前提で加工を受けたはずなのに、1μm 公差から外れたため全品再製作になったというような事例です。

町工場「あるある」の典型例ですが、実際に開発を担当しているエンジニアに直接確認すれば問題にならないようなことでも、中間に他の部署や企業が入ることで、開発者と加工現場との十分なすり合わせができないまま、杓子定規に「図面通り」でなければ作り直しを要求されるケースが増えています。

企業内の「品質管理」や「コンプライアンス」という観点から厳しい対応を取る姿勢は理解できないではないのですが、こういったケースが重なると、受注側としては、そのリスクを価格に転嫁せざるを得ません。「次の見積もりには、作り直しのコストをあらかじめ単価に計上しておこう」といった判断になるわけです。

クレームや作り直しの頻度や要求水準のように図面からは見えないリスクを、どの程度見積金額に盛り込むのかは、人員的にも、財務的にも限界を持つ町工場にとって非常に難しい課題なのです。

要求レベルが高すぎる

さらに、要求レベルが高すぎる場合、工数やリスクの正確な見積が困難になるということがあります。最近の風潮ですが、とにかく寸法公差が厳しかったり、実現が極めて難しい形状があったりします。一見容易に見える加工でも、注意深く見れば極めて難易度の高く現実性のないものである場合もあります。

それを見抜けずに、安易に安い金額で見積を出して、再三作り直しを迫られるという経験は、町工場の誰しもがしているはずです。真面目に図面通り作ろうとすればするほどコストは上がるのに、その苦労が理解されないという感覚を多くの町工場の経営者は持っているのではないでしょうか。

バラツキの背景にある重大な変化

見積もり金額にばらつきがあるという現象は、一見、それぞれの単発の出来事として、ほとんどの場合、その発しているメッセージは重視されることなく、見逃されていることと思います。しかし、その背後に起きている事象は、おそらく一般の方々が考えている以上に深刻なものです。

一言で言えば、それは日本の製造業が得意としてきたと言われる「すり合わせ」のエコシステムが崩壊しつつあるということです。それは、日本の製造業の土台が脆弱化していることに他なりません。

企業と受注側である町工場とのコミュニケーションが不十分であるという表面的な要因だけではなく、もっと深いところで企業と町工場の関係性が変化していることも見逃せないことです。これは企業側だけでなく、町工場側も真剣に考えていかなければならない課題なのですが、その話は次回以降に。

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