超高齢化社会プログラム2019@一橋大学ICS DAY5

グループワークの追い込み

1週間に渡る超高齢化社会をテーマにしたプログラムも最終日を迎えました。午前中はグループワークの時間に充てられ、各グループは最終プレゼンテーションの資料を完成させなければなりません。各グループとも最後の追い込みに必死です。

各グループは、スポンサー企業となっている2社の内1社を担当し、その企業から出された課題についてソリューションを考え、提案するものです。Executive MBAの学習の一環ですので、アイデアを提示するだけではなく、きちんと論理構成を行い、説得力のある提案をしなければなりません。企業の事業内容を把握し、その課題の背景と原因を分析し、本質的な問題点を探り出すことが求められます。その上で実現可能な計画を示さなければなりません。決して簡単な課題ではありません。

それでも、このグループワークの非常に面白いところは、メンバーに広い多様性があることです。それぞれが異なる文化で育ち、職業も違い、知識や経験、受けた教育分野も重ならないので、一つのことに色々な角度から見ることができます。また、チームとして必要な各自の強みや知見を組み合わせることで、成果を出すスピードが早まり、内容にも広がりや充実さが生まれます。

Executive MBAで学ぶには、社会人経験が15年以上が基本的な要件なので、参加者は基本的には企業や団体の幹部クラスです。今回のメンバーも相互に相手をリスペクトする姿勢が強く、どのチームも議論が順調に進むのが見ていて心地いいほど。きちんと意見を言い合いながら、集中力をもってひとつの形に収束させていく力は、さすがにすごいものがありました。

非常に印象深かったのは、グループを代表するプレゼンテーターたちがランチの時間などを使い、一人でプレゼンの練習をしている様子です。外国人はプレゼンテーションが上手だと言われますが、決して先天性のものではなく、こうした練習をくりかえし、集中力を高める訓練をしているのだということが良くわかりました。

グループ・プレゼンテーション

期限通りに各グループのプレゼンテーション資料が出揃い、午後からグループのプレゼンテーションが始まりました。各グループは15分間のプレゼンと質疑応答というセットになっています。短い時間で手際よく、ポイントを明確にしてプレゼンしなければなりません。

一橋ICS 伊藤友則教授

スポンサーの2社

今回、グループワークのスポンサーになっていただいたのは株式会社オリックス・リビングとホウカンTOKYOの2社です。両社とも昨年に引き続きスポンサーを快く引き受けて下さいました。スポンサー企業には、事前のご相談や打ち合わせ、会社紹介や企業訪問の受け入れ、参加者からの質問への回答、そして最終日にはグループのプレゼンテーションを聞いて講評していただくなど、多大なるご負担をおかけしましたが、とても丁寧にご対応を頂きました。心から感謝申し上げる次第です。

ホウカンTOKYOへの提案

グループの発表は、ホウカンTOKYO社を担当者する2グループから始まりました。課題は、同社が成長段階に入っている中で、企業としての収益性の最大化と看護師はじめスタッフのモチベーションや顧客満足度とのバランスをいかに取っていくことができるかというものです。訪問看護という特殊なサービス業の内容や収益構造、事業をとりまく環境も含め多面的に理解・分析する必要があり、簡単なタスクではありませんでしたが、どちらのグループも的確に問題点を整理し、海外での事例も引き合いに出しながら短期・中長期のアクションプランを提示することができました。

株式会社オリックス・リビングへの提案

次にオリックス・リビング社担当の2グループが発表。同社からの課題は「良くする介護」という日本にはまだ新しい理念をいかにマーケティングし、潜在的な顧客やその家族に伝えていくことができるかというものでした。形式的な意味で手厚く介護するだけでは高齢者の自立や人間らしく生きるという尊厳を奪いかねないという問題意識が根底にあり、介護を受ける人にとって本質的な人間の幸せや尊厳を回復するという視点に立って介護サービスを提供すべきという考え方です。

こちらも理念を理解し、日本人の文化やサービスに対する意識を分析し、戦略を組み立てる必要があり、容易な課題ではありませんでしたが、2つのグループとも課題の本質をきちんと捉えた上で、本プログラムの1週間の学びも取り入れながら、説得力のあるマーケティング戦略を提案できました。

どのグループの発表も、非常にレベルが高いものでした。各社の企業秘密もあるので、この場では詳細は共有できませんが、本当に素晴らしい内容で、スポンサー企業の代表でお越しなっていただいたオリックス・リビング社の森川社長とホウカンTOKYOの河田取締役の両氏共、とても高い評価をしてくださり、各グループの苦労も報われました。ホウカンTOKYOからは、上池台ステーションの所長である岡本優子さんとサービス企画マネージャの豊田祐介氏も参加され、貴重なコメントをいただきました。

プログラムの振り返り

グループ発表が終わると、プログラムの振り返りのセッションに入ります。まず個人でそれぞれが1週間の学びを整理し、それを仲間たちと共有したり、ディスカッションする時間が設けられています。最後に講師陣による講評やまとめがありました。

本プログラムの企画・運営、さらには講師陣に加わった者として、TOKYO町工場HUB(古川)として、いくつか感想を述べさせて頂きました。

一つには理念や制度と現場の運営の間には、まだまだ大きなギャップがあるという実感です。政府が推進する地域包括ケアシステムは、日本が様々な制約を抱えながら、直面する超高齢化社会の諸課題に対する有力なソリューションには違いないのですが、それを実現するためのインフラや仕組みが不十分で、現場の計り知れない負担によって辛うじて支えられている状況があり、とてもサステナブルとは言えないということです。このギャップを埋めていく創造力がイノベーションであり、それぞれの分野でグローバルに課題に取り組む使命が我々にはあります。

もう一つは、高齢化社会の諸課題は本質的に見えにくいし、社会として制度や仕組みの改善は声高に主張することはできるかもしれないけれど、実際に支えを必要とする個々の人たちの声は必ずしも聞き取れないということがあります。寿命が延びるということは、支えてもらって生きる時間が長くなるということでもあり、こうした声なき声を聞き取ることも次世代のエリートには求められるのではないでしょうか。小さな声にも耳を傾けてほしいと期待を託しました。

プログラムのフィナーレは修了式です。各自に修了証が手渡され、一橋ICSの藤川先生の音頭の下、最後は一本締めで締めました。

一橋ICS 古賀健太郎准教授

終わってみればあっという間の1週間でしたが、今回も多くの方々のご協力や支えがあって無事に完了することができました。最後になりましたが、このような貴重な機会をいただき、TOKYO町工場HUBを信頼してくださった一橋ICSの皆様には心から御礼申し上げます。

特に、本プログラムをリードなさった伊藤友則教授、また古賀健太郎准教授と藤川佳則准教授にはチームの一員として温かく迎え入れてくださり、本当にお世話になりました。裏方で全ての事務や段取りを取り仕切っていたEMBAのスタッフの皆さんには、いつも助けられています。感謝の言葉しかありません。

今回巡り合った方々と、またいつかどこかでお会いできますように。

一橋大学大学院 国際企業戦略研究学科(ICS)について

一橋ICSは、日本有数の国立大学として伝統ある一橋大学を母体とし、その精神を受け継ぐビジネススクールです。2000年、経営学教育のイノベーター集団により、全ての授業を英語で行う日本初のグローバルなMBAプログラムとして発足しています。教授陣には、野中郁次郎一橋大学名誉教授や数々のビジネス書でも有名な楠木建教授などが在籍されています。

http://www.ics.hub.hit-u.ac.jp/jp/

Global Network for Advanced Management/Global Network Week

Global Networkは、世界のトップビジネススクール30校により構成されるネットワークで、一橋ICSは、設立当初から日本を代表とする1校として参加。同ネットワークが行う様々なプログラムの中にExecutive MBAを対象にしたGlobal Network Week for EMBAがあります。これは世界のEMBAの学生たちが、各メンバー校が主催する1週間のプログラムに参加するもので、一橋ICSは昨年からEMBAを受け入れ、「超高齢化社会」をテーマに本プログラムを実施しています。

TOKYO町工場HUBは、一橋ICSの委託を受け、2018年の第一回目開催より本プログラムの企画と運営に関わっています。