ツナグツムグ物語 第2話:顧客価値って何?

事業コンセプト、顧客価値、プロトタイピング

事業コンセプト、顧客価値、プロトタイピング

株式会社安心堂のパッド印刷

ワンストップ・マーケティング講座の第2回目のセッションです。今回は、場所を株式会社安心堂に移し、チームづくり、商品開発の具体化のステージに入っています。

株式会社安心堂は、1974年に東京都足立区で設立された「パッド印刷」専門の印刷会社です。パッド印刷とは、凹版とシリコンパッドを利用して、平面だけでなく局面や凸凹面にも正確かつ精緻な印刷が可能な特殊な印刷法。安心堂さんは、パッド印刷の付加価値を多面的に追求し、顧客の新しいものづくりの可能性を切り拓いています。

創業者であり、現会長でもある丸山寛治さんに、パッド印刷とは何かの説明を受けました。「やってみよう!」ということで、同社が独自に開発した「なんでもくん」で、いとも簡単に「Tokyo Business Junction」のマークを製版し、ゴルフボールの表面に美しく印刷。あまりの美技にメンバーはびっくり。いかにも難しい技術を、誰でも簡単に操作できるようなプロセスに落とし込み、独自の器具を開発した発想やアイデアは、やはりすごいものがあります。

はんこ屋さんゴッコ

丸山会長には、はんこ屋さんゴッコを開発するに至った経緯や思いを語っていただきました。太陽光を使って、手作りのハンコをつくるキット「はんこ屋さんゴッコ」は、太陽光をつかって製版するという昔ながらの技術と丸山会長が生み出した独特の製法をうまく取り入れたもの。専務取締役の丸山有子さんがはじめた子供達にむけたハンコづくりのワークショップは、いつも品切れになってしまうほどの人気ぶり。一方、キットそのものは、販売活動に力を入れることができず、十分な成果を出せていないとのこと。本プログラムに期待がかかるところです。

商品の向こう側に生きた人

次に、デザイナーであるサワノ エミさんに、商品開発の基本的な取り組み方について、自身の取り組んできた事例紹介も含めながら、講義を頂きました。サワノ さんは、「商品やサービスの向こう側には、生きた人がいる」ということを繰り返し語り、技術や機能も大事だけど、その商品とサービスを使っている人が感じる喜びとか楽しさなど、人の感情の動きを忘れてはならないと説きます。アイデアが行き詰まったときの打開策やターゲットの周りにいる人たちのことも考える必要性など、現場感覚のお話をたくさん聞くことができ、とても有意義な学びとなりました。

チーム名と事業コンセプト

後半は、グループワークが中心です。まずは、最初の週に各自が取り組んだ「脳を耕す」課題の振り返り。やはり、これだけ参加しているメンバーの個性や専門が多様だと、出てくる言葉やイメージが、実に多彩で、とても面白い。お見せできないのが残念ですが、本当にチームのポテンシャルな創造力が垣間みえて、わくわくします。

そしてチーム作り。最初の課題は、チーム名とチームの事業コンセプトを決めること。それぞれのアイデアを付箋に書いて、自分たちの思いと照らし合わせました。前回のセッションで、「なぜ作るのか」というコンセプトの中核となる信条であるとか情熱を商品企画につなげていくということを学んだことメンバーは、もう一度、それぞれの原点に戻って考えてみました。いろいろと話し合った結果、最終的に「ツナグツムグ」というチームに決定し、これがチームのコンセプトにもなっています。

ツナグツムグ

ツナグというのは、手と手であったり、私とあなたであったり、過去と未来であったり、技術と芸術であったりと、空間的にも、時間的にも、心情的にも繋がって絡まっている社会や家族、仲間たちを表現するものです。そこから生まれる豊かな体験、様々な壁を乗り越える自分、新しい世界に広がる自分をイメージしています。

ツムグという言葉にも、いろいろな意味や思いが含まれているけれど、「物語を紡ぐ」という意味もあります。今回のものづくりのスポンサーでもあり、チームのメンバーの一員となっている安心堂の丸山有子さんが、「わたくしたちはモノをつくっているのではなく、物語をつくっている」という言葉を語ってくださり、皆の心に深く刺さりました。

顧客価値を考える

この中核となる自分たちのコンセプトから、顧客へ提供する本質的な価値を考えることが次の課題です。顧客価値というと、どうしても「~ができる」という機能面に重点が置かれやすいのですが、ここでは顧客の感じる喜びであったり、ワクワク感などの様々な情緒的な感覚にイメージを膨らませるように話し合っています。

前回のセッションを振り返り、実際に自分がハンコ屋さんゴッコを使ってみて、気持ちが最高に盛り上がったところはどこだったろうかと問いかけるメンバーがあり、それぞれが自分の一連の体験プロセスを時系列の感情曲線にして話をしました。面白いことに、5人しかいないのに、それぞれが感じた最高の瞬間が違うのです。ある人は、ハンコが出来上がった瞬間だといい、ある人は皆の作品を見るときのワクワク感といい、あるひとは人に見せた時の喜びの反応だといい、ある人は作ったハンコを自分の好きな人にプレゼントした時のドキドキする瞬間だという。子供がそれを使って楽しんでいる姿を見た時が最高だったという人もいる。

そこから導かれた顧客価値は、「つくることを最大限に面白くし、その成果を伝え、繋いで、広げることを最大限に楽しくする」こと。これが実現できれば、とっても面白い商品になるのではないかという結論に、メンバーでうなずき合い、ワクワク感が一段ギアアップした感覚を受けました。

心と体で考える

さて、こうした作業を行った上で、実際に商品の内容を考え、ありあわせのものでプロトタイプを作る作業をグループで行いました。このパートはあまりに面白いので、今の段階では公開できません(貴重なアイデアがたくさん生まれました)。ごめんなさい。ともかく時間を忘れるほどに、メンバーの方々は打ち込んだということだけはお伝えしておきます。

今回のテーマは、「心と体で考える」だったのですが、それは十分に発揮できたようです。

これから次回までに、商品開発の企画書ドラフトを書き上げることが次の課題です。チームでどのように役割分担しつつ、ひとつのものにまとめ上げていくことができるか、大きな挑戦となります。一旦、解散ということにしたのですが、そのあとも話し合いが続き、予定の時間を1時間オーバーしてしまいました。

わたくしたちのような中小、零細企業が大企業やグローバルな競争の中で勝ち抜いていくには、スピードと機動力しかありません。いかに速い回転でサイクルを回し、学びを深め、経験値を上げて改善していけるかが勝負です。その先に、きっとイノベーションが見えてくるでしょう。とはいえ、人がやることです。さまざまな制約があるし、人と人との関係性が推進力にもなるし、重い足枷ともなります。

メンバーの多様性を生かした力を発揮できるか。チームのメンバーそれぞれの「信頼すること、認めること」の力が試されます。

メンバーの一員であるSさんは、大企業で精密機械のプロダクト・デザイナーの仕事をする傍ら、皮革クラフトの制作も行っている。頼りになる人。雑司が谷のマーケットで。