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あなたの見積依頼になぜ回答がないのか

見積もり依頼に回答がない?

大手メーカーにも出入りしている中堅機械部品商社の担当者から「最近、図面を下請け企業に送って、見積りの依頼をしても回答がないことが多い」という話を聞きました。大手メーカーの開発品の機械加工部品を扱って10年以上になる方ですが、かなり困っているという様子です。

こうした町工場の変化は、商社だけでなく、メーカーで調達に当たっている方でも少なからず感じているところではないでしょうか。

中国などの新興国の協力工場であれば、すぐに対応してくれるし、納期も単価も半分くらいで済むのに。こんなことだから、日本の町工場は衰退するのだ。

こんな愚痴も聞こえてきそうですが、よく注意して見ておく必要があります。一見、ちょっとした変化に見えますが、現在の町工場や日本のものづくりの現場が発しているサインであり、この背景にある原因を見過ごすと、思わぬ時に足元をすくわれるかもしれません。

見積もり依頼に対して回答が返ってこないのは、町工場の現場におけるいくつかの大きな変化が重なり合った結果なのです。

できる町工場に仕事が集中

第一に町工場数の激減です。国内の町工場の数は、全盛期から地滑り的に減少してきています。

グラフ1とグラフ2をご覧ください。国内製造業の事業規模別の事業所数と従業員数の推移をそれぞれグラフに表したものです。

(注)わかりやすさのため、本記事では20 名未満を零細企業、20~99 名を小規模企業、100~299 名を中規模企業、300~999 名までを中堅企業、1000 名以上を大手企業と分類

<グラフ1>出典:経済産業省 工業統計調査
<グラフ2>出典:経済産業省 工業統計調査

バブル崩壊後の長期経済低迷や経済のグローバル化・製造業の海外移転などで、すでに1980年代から1990年代にかけて事業所数と労働者数が激減していますが、その傾向は依然続いており、日本の製造業を担ってきた土台が、どんどん縮小している様子が見て取れると思います。

より詳しくみると、その変化の度合いには濃淡があることがわかります。表1で示したように、大きな企業での変化は少なく、事業規模が小さいほど、企業数も従業員数も減少幅が大きくなっています。零細企業では、たった12 年間で実に3 分の1 が消えてしまい、急激に淘汰が進んでいるのです。

<表1>日本の製造業の事業者数と従業員数の年度比較

さらに言えば、本統計には「従業員4名未満」の会社が含まれていません。実際には1~3 名程度の町工場の数は非常に多く、大田区では半数以上の工場が3名以下となっているほどです。実感としては、統計に表れていないこの規模の町工場の減少がより進んでいると感じています。

工場数や従業員数が減った理由としては、製造業のグローバル化や日本経済の伸び悩みといった事情もありますが、現場で見聞きしている限りでは、事業が行き詰って倒産というよりは、後継者不足で廃業という道を選択する町工場が近年急激に増えてきたようです。

こうした事業所数の減少により、生き残った町工場に仕事が集中するようになっています。そのため、どこも手元の仕事をこなしていくのに手一杯で、新しい仕事を引き受ける余裕が小さくなっているのです。

町工場の見積もりに対する意識の変化

第二は、町工場の見積もりに対する意識の変化です。

激しい淘汰の嵐を生き残った中小零細企業は、そのビジネス・スタイルによって2 極化しています。従来の方法を変えずに生き残っている企業と、ビジネスのやり方を大きく変えて成長している企業です。

前者の企業は、値段を下げてでも仕事の量を優先するところで、限界ギリギリの金額で見積を出すところもあれば、何十年も前の物価水準のまま単価設定を行なっている企業もあると思います。

しかし、こうした企業においても、最近のメーカーや商社による見積もり依頼のやり方に対して、コスト意識を持つようになってきています。例えば、次のような事例をよく耳にします。

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町工場A社は、数十社の顧客を抱え多品種少量の製造を請け負っています。顧客は、直接取引している大手メーカーもあれば、商社を介して取引しているメーカーもあり、多品種少量ですので、一日に20~50 点ほど新しい加工品の引き合いがあります。ほとんどが単発案件です。

新規の商社から、新しく引き合いがあり、急いで見積をしてほしいという連絡がメールで入りました。メールに添付された圧縮フォルダを開くと、100 点を超える図面が出てきました。これを翌朝一番で見積提出して欲しいというのです。営業担当者は、その日の業務を中断し、徹夜で見積をしました。初めてのお客様なので、値段も大幅に割り引いて提示しました。

しかし、その後、顧客である商社からの回答は一向にありません。確認のため連絡をいれてみると次のような回答でした。「市場調査のための相見積もりで、今回の発注予定はありません。また時期が来ましたら、見積をお願いします。当社は、取引の公平を期すために必ず相見積もりとなります。」

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市場調査のための相見積もりとは何でしょうか。また、公共事業でもないのに取引の公平を期すための相見積もりを取る必要性はあるのでしょうか。要するに、発注したい企業との相見積もりを揃えるための「当て馬」として利用されたわけですね。

A社が「次回からは見積は有償とします」と伝えたところ、その商社からは連絡が来なくなったそうです。しかし、その数日後、同じ内容のメールがこの町工場の仲間の会社に届くのです。最近ではこのような、見積のたらいまわしが頻繁に良く起こっています。

一方、従来の単価設定のビジネスから「卒業」している企業は、サービスの質を上げ、労働生産性を高めています。工場数の激減を受けた人手不足も追い風になり、需要よりも供給が減っている局面ですから、この需給ギャップにより仕事が絶えない状況になってきています。

付加価値を提供できる企業は、次から次へと新しい仕事が舞い込む循環に入っており、残念ながら、相見積もりを取られていることが分かっている価格勝負の仕事にまで手が回りません。

メーカー側の変化

第三に、意識の高いメーカーの技術者が、直接町工場に相談する事例が少しずつ増えてきたこともあります。

メーカー側でも、相見積もりをとって単価の安さを追求するだけでなく、町工場と対等なパートナーとして、相互に利益がある関係構築を重視し、結果的にコストを引き下げることにメリットを見出すところが現れているのです。

このような意識を持つメーカーは、案件ごとに町工場とのすり合わせが密にできており、町工場側もモチベーションを高く持って期待に応えようとします。相見積もりで競争させられているとわかっている相手の仕事より、こちらが優先されてしまうのは、仕方がないことでしょう。

まとめ

上記の状況を端的に言い換えれば、もう日本の町工場には、単価の引き下げ競争だけで生き残る力や余裕がないということです。量産は中国や新興国の工場に敵いません。オンラインを介した定型的な見積もりで完遂できるような仕事では、日本の町工場は対抗できないのです。

一方、見積もりを作成するには、それなりのコストも時間もかかります。特に付加価値のある仕事の見積もりには、新しいアイデアを考え、工夫をこらすことが必要となり、見積もりそのものに付加価値があると言えます。したがって、単価の引き下げを目的にしたメーカーや商社の相見積もりの要望には、応えている暇も余裕もなくなっているというのが実情なのです。

しかし、だからと言って、全て中国などの協力工場にシフトすれば良いかと言えば、そうでもないでしょう。海外からの調達は為替のリスクや、コミュニケーションの問題で不安が残るし、トラブルも頻発すると感じているメーカーや商社の方も多いと思います。

「見積もり依頼に回答がない」というサインには、こうした変化が背景にあります。これは、メーカーや商社と町工場の新しい関係構築の必要性を示唆しているとも言えますし、町工場の付加価値をいかに上げるかという問いかけでもあると考えています。

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