ツナグツムグ物語 第3話:スラックレールから学ぶマーケティング!

商品開発会議!

ジリリタ株式会社の高島さん

ワンストップ・マーケティング講座の3回目の舞台は、東京都北区桐ヶ丘商店街にあるジリリタ株式会社の桐ヶ丘ラボ。昭和の面影を濃く残した商店街の中に、ひときわポップでありながら、でも不思議な温かさや懐かしさにも溢れた素敵な場所でした。

前半は同社の代表取締役である高島勇夫さんを講師にお招きし、商品開発と事業開発についてお話を頂きました。

高島さんが経営するジリリタ社は、玩具・スポーツ用品および雑貨の企画、デザイン、製造販売を主な事業とし、スラックレールという画期的なスポーツ用品・健康器具を開発されて、テレビや雑誌でも取り上げられている注目のアントレプレナー(起業家)です。

おもちゃはコミュニケーションのツール

おもちゃ作りを夢見て玩具の製造メーカーに入社した高島さんは、営業の仕事に回されてしまいます。そこで多くの知識や経験を積み上げつつ、既存の玩具業界の慣習や企業のあり方に疑問を持ち、おもちゃを作りたいという強い思いに押されて一念発起して2年前に独立。「おもちゃはコミュニケーションのツールである」という理念を掲げ、スラックレールをはじめ、独自の商品やOEM製品の製造・販売されています。

また地域の活性化にも尽力。地域の商店街のシャッターを開け昭和の賑わいを復活させるプロジェクトを街の人々と取り組んでいたり、桐ヶ丘を「スラックレール発祥の地」として、スラックレール普及が地域の活性化にも還元される仕組みづくりも行なっています。

高島さんのお話は、どのエピソードも興味深く、またその考え方はユニークで新鮮です。何を話しても愉快にさせ、明るくエネルギッシュなお人柄に、メンバーもすぐに打ち解けて、楽しい時間となりました。中でも印象的だったのは、高島さんの商品開発とそのマーケティング手法。

シンプルに作り、長く売る

商品開発については、たくさんのストーリーやユースケースを織り込みながら、徹底的にシンプルにすることを心がけているとのこと。

スラックレールはその典型で、スラックラインという新しいスポーツの練習器具として開発されながら、実に幅広い用途を想定してデザインされていて、それはプラレールに触発されたという「つなぐ」発想にも現れています。ひとりひとりが持っているスラックレールは、端と端をつなぐことで、線路が続くように伸びていきます。そこには、人と人のつながり、おもちゃはコミュニケーションのツールである思想が体現されているのです。

またマーケティングを貫く理念は「長く売る」ということ。この発想の根底には、関係者と一緒に利益を分かち合うという思いがあります。ひとつの製品を開発し、製造販売するためには、多くの企業や人々が関わることになります。一生懸命に支えてくれた人たちと長く稼ぎを共有したい。だから短期の利益を追求して値崩れを起こしたり、無理な売り方をして製品が売れなくなることは絶対に避けなければならない。

高島さんの語り口は、本当に楽しい。ビジネスをエンターテインメントにしている。

言い出しっぺは何事も徹底的に

製品も、顧客も着実に育てることが大事。そのためには、あらゆる計算をし、すごく慎重に戦略を練る。高島さんは、自身のマーケティングの姿勢について「売りつけることはしないし、顧客も選ぶ。スラックレールは乗れば分かるので、乗せたら勝ち。モノが物語を語ってくれる。そのように徹底的にモノもコトも経営もデザインしている」と語ります。

最後にメンバーへのメッセージをこのように締めくくりました。

「言い出しっぺは何事も徹底的にやることだ。中途半端はいけない。徹底することで突き抜けることができる。覚悟を決めて取り組めば、人は自然に集まる。自分のカンを信じて進め。」と。

商品開発会議

後半は「はんこ屋さんゴッコ」をベースにした新しい商品開発の企画会議。まずは、セグメンテーションとターゲティングについてディスカッションを行いました。事前にメンバーには、商品開発の提案書づくりに取り組んでもらっていましたが、不特定多数の人たちをいくつかの切り口で分けて、標的とする市場を選定する作業は、特に苦労していたようです。

セグメンテーションを行う意義を学び、チームの事業コンセプトや商品コンセプトと照らし合わせながら、議論を深めました。

セグメンテーションを考える

セグメンテーションというのは、その意義や方法論はわかっても、実際に考えるとかなり難しいものです。年齢や性別などはわかりやすいのですが、今回のように買う人のライフスタイルや嗜好などが色濃く反映される商品では、そういった切り口では顧客のニーズを十分に捉えることができません。かと言って、あまりに細かすぎると広がりのないものにもなってしまいます。

最初は年齢や性別などの切り口がメンバーから提示されていましたが、理解が深まるにつれて徐々に顧客の本質的なニーズについて考えるようになってきました。大手メーカーでプロダクツ・デザインを手がけるメンバーのSさんからは「自社でも同様の議論がなされている」という体験談の共有もあり、その視点からいくつかの重要な軸が提起されて、議論が一気に進みました。

どう差別化するか

次に、ポジショニングということを考え、差別化戦略として、どんな軸を検討すべきかについても話し合いました。この点については、チームの名称であり、事業コンセプトでもある「ツナグツムグ」の意味を深掘りすることで、方向性を模索。

どのような顧客を想定するのか、どのような顧客価値を提案するのかということについて、それぞれの見方を話し合うところから始めましたが、大きな推進力になったのが、最年少で参加しているYさんで、実際に友達に「はんこ屋さんゴッコ」を見せて意見を聞いたり、使ってもらって感想を聞いたりと実地で調査を行ったとのこと。この調査の様子を聞き、たくさんの示唆を得ることができました

製品イメージを詰める

製品イメージについても具体的に詰めていきました。「セットにする」ということでは一致しましたが、どこまでの範囲でセットを用意するかという点では意見が分かれました。できるだけ盛りだくさんの方がいい(例えばハンコの種類や数などを数多く揃える)という意見と、むしろ少なくすべき(現状のものさえ、too much!)という意見があり、それぞれの根拠も納得できます。とりあえず今回はクラウドファンディングでの販売になるので、基本となる製品は本数などを抑えつつ、いくつかのオプションをリターンに組み込もうという結論になっています。

ここでもYさんの調査が大いに役立ちました。どういう形のものが好まれるか、どういう用途が響くのかなど、実際に色々な人に見てもらったり、使ってもらったりすることで、顧客が利用しているイメージがとても鮮明になるのです。頭の中で考えているだけでは見えない洞察が得られたことはとても有益でした。

価値表現のフェーズに

最後に販売個数、コスト、価格などの相関関係や、価格設定における基本的な考え方についても整理しました。今回提示されたアイデアをもとに、スポンサーである株式会社安心堂さんが試作やコストの見積もりを出し、これをベースに価格設定についても検討することになります。

商品の具体的なイメージが出来上がってきたので、次回からは価値表現のフェーズに移ります。4回目のセッションは、株式会社新東通信の祐川さんを講師とし、いよいよクラウドファンディングの実務に入っていきます。その先には、映画監督の諸江亮さん、女優で演技指導やコミュニケーションの指導をされている日ヶ久保香さんのセッションが続きます。

参加者のゴールデンウィーク中の宿題は、課題図書を読み、クラウドファンディング・キャンペーンのタイトルやストーリーのシナリオなどについて検討することです。ここから、どんな展開に発展するのか、とても楽しみになってきました。

今回のセッションの立役者!