ツナグツムグ物語 第6話:葛藤の先に物語は紡がれる
物語を紡ぐ言葉とイメージ
俳優の日ヶ久保香さんを迎えて
「これほど言葉について学んだことはなかった」メンバーの一人のコメントです。「言霊ことだま」という言葉の説明からはじまったセッションは、熱狂のうちに3時間がノンストップで過ぎ、芸術作品を見た後のカタルシスのようなものに包まれて終了しました。「もう一度セッションを受けたい」そんな声もメンバーたちから聞こえてきました。
足立区の町工場、安心堂さんの「はんこ屋さんゴッコ」のリニューアルをテーマに進めているワンストップ・マーケティング講座は、レクチャーセッションの最終回を迎え、俳優歴18年、演技指導のベテランであり、コミュニケーション指導にも造詣の深い日ヶ久保(ひがくぼ)香さんを講師に招き、ストーリーテリングのワークショップを行いました。
感情を動かす
ストーリーテリングとは、まさに物語を語ること。なぜモノやサービスを売るために物語を語ることが大事なのか。それはモノやサービスに溢れる現代日本に生きる私たちは、もはや生存や必要のためにモノを買うのではなく、自分たちの生活や人生を幸せにし豊かにするためにモノやサービスを求めており、仕様や品質といった理屈面で動くことよりも、その背景にある製品や作り手のストーリーに心を動かすことが、消費活動につながることが多くなっているからです。ストーリーに見えない付加価値を見出すことで購買意欲が刺激されるのです。
今回の講師になっていただいた日ヶ久保さんは、自ら女優としてストーリーを演じる経験を豊富に持ち、演劇指導という仕事の中で「役作り」を体系的に論理構成し、それをマーケティングにおけるコミュニケーションの手段として伝える術を磨いています。いわゆるマーケティングの方法論としてストーリーテリングに取り組んでいる人ではなく、より深いところで「感情を動かす」ことに向き合ってきた日ヶ久保さんのセッションは、それ自体が心を奪われるストーリーとなっていて、メンバーの心を動かしてくれました。
感情の記憶を紡ぐ
日ヶ久保さんが今回のセッションで大事にしたのは、いわゆる「起承転結」とかの物語の構成に関する定石などではなく、もっと基本的な「言葉とイメージ」ということであり、言葉によって自分を掘り下げながら、同じ言葉を受け取る他人が持つイメージや感情を動かすポイントの共通点や違いを感じ、ギャップを意識することに重点がおかれました。
言葉の持つ意味やイメージの感じ方は、その人の人生や生き方のバックボーン(背骨)そのものであると日ヶ久保さんは教えてくれます。
他人の痛みに共感できるのは、自分に痛みという「感情の記憶」があるから。痛みという共通の感覚はあるものの、痛みの感情を記憶した文脈はそれぞれ違い、それが個性を生み出す。ストリーテリングとは、自分の感情の記憶を掘り下げていく先に、人と共感できる感情を見出す作業に他なりません。日ヶ久保さんは、そのことを様々なワークを織り交ぜながら、構造的に、体験的に学びを積み重ねる緻密なセッションを組み立ててくれました。
3時間の白熱のドラマ
どんな展開で3時間がノンストップで続いたか。本当は事細かく全てお伝えしたいところですが、あまりに貴重で充実した体験でしたので、やはりこれは営業秘密として控えます。個人やグループのワークだけでなく、具体的なストーリーテリングのテクニックもたくさん盛り込まれていて、それはそれは贅沢なセッションでした。体験したい方は、次の機会にぜひご参加を!
終わった後に、盛大な拍手が沸き起こったのは、今回が最初で最後。日ヶ久保さんが全身全霊をかけたワークショップは、ワークショップという言葉では表現しきれない内容と質で、まさに3時間の白熱のドラマ。圧倒的なパーフォーマンスは、本当に感動的でした。
香さん、本講座の前半のフィナーレを素敵な時間で飾ってくれて、本当にありがとうございました。
ツナグツムグの物語が始まる
レクチャーセッションが終わり、ここからツナグツムグの本当の物語が始まります。
本講座は、商品企画から価値表現、最後は実際にクラウドファンディングを実践するまでのプロセス全体を実体験することに価値を置いています。事業は、何をやるにもリスクはつきもので、本質的に予定調和が保証されているものではありません。その怖さと向き合うこと。これは並大抵のことではないのです。
ゴールデンウィークを挟んでひと月が経過して、いろいろと得たインプットをうまくアウトプットできずに、メンバーの気持ちの中にジリジリとした気持ちが芽生えてきているのを感じます。掴めそうで掴めない何かがあって、もがいている。いろいろなアイデアが浮かび、発見もあるけれど、どこか周辺をかすっているようで、ストンと気持ちや心に落ちてこない。空回りしている感覚で、第4回目のセッションで学んだ「5W2H1M」が、どうしても埋まらない。
顧客創造の冒険が本講座のテーマ。冒険とは、困難や災難にぶつかり、恐怖心と戦うこと。そのために必要な装備は、この6回のセッションで準備できたはずです。でも、その価値に気付くかどうかが、参加者には問われています。時に人は、自分が手にしてしまったものを軽く見てしまう傾向があります。まだ得ていないことに価値があると思い込んでしまうことが多いのです。でも、本当に大切なものは、すでに手にしているのかも。
6回のセッションで大事にしていたことがあります。一つには生の言葉。誰か知らない人の成功事例を、あたかも自分がやったかのように、事例紹介するようなセッションはやりたくありませんでした。成功であれ、失敗であれ、実際に取り組んだ人の生の声で伝えたかった。そのことで感じる迫力や、思いが本当の学びになると信じているので。
もう一つは、自分を土台にすること。最初のSteveとHee Gunのセッションでは、「why」から始まる自分の物語をhowやwhatに一貫性をもってつなげていくことを教わりました。井島さん、サワノさんや高島さんのセッションでも基本は同じ。諸江監督が真似ることを推奨するのも、個性を大事にするからこそ。それは自分自身をみつめることでもあります。どうしたって自分の個性から抜け出すことはできない。今回の日ヶ久保さんからの学びもまさにそこに重点がありました。
自信というのは、他人から褒められたり、与えられることばかりではない。ありのままの自分の魅力に気づくことも大事。本講座の最初のメッセージは「僕らには翼がある」というものでした。そのことに気づけば、飛べるはず。
日ヶ久保さんが教えてくれたように「全ての物語は葛藤と衝突である」。物語はもう始まっています。