超高齢化社会プログラム2019@一橋大学ICS DAY2
超高齢化社会の課題と機会
超高齢化社会をテーマにした海外のExecutive MBAたちを対象にしたプログラムの2日目は、超高齢化社会の様々な側面を多様な講師陣から学びます。
日本と世界の超高齢化社会
最初のセッションは、東京大学高齢社会総合研究機構(IOG:Institute of Gerontology, IOG)の特任講師である菅原育子先生にご登壇いただき、世界と日本が直面する高齢化社会の本質的な課題について解説をして頂きました。
IOGは、日本と世界各国で急速に進行する社会の高齢化にともなう諸問題解決のため、問題を総合的・分野横断的に研究するハブ組織として、2009年4 月、東京大学に設立された研究所です。菅原先生は、社会心理学の側面から高齢化社会の研究に取り組んでいます。
菅原先生には、本プログラムを通じて参加者が超高齢化社会の理解を深めていく上で、把握しておくべきポイントを概説して頂き、参加者が問題意識をもって課題に取り組めるようにお話を頂きたいとお願いしていました。
高齢化社会は日本だけの特殊ケースではなく、世界的な傾向として遅かれ早かれどの国も直面する課題。韓国などの一部の国では、日本以上に高齢化が急速に進む予測があるということです。
日本では、2065年に65歳以上の高齢者比率が38%を超える予測ですが、その状況が個々の高齢者やその家族、あるいはコミュニティにどのような影響を与えるのか。医療や介護、あるいは住居や移動手段といった公共サービスやインフラの不足も見込まれ、財政面での負担が大幅に増えることが予想されます。どこでどう暮らし、誰に支えてもらい、どこで死ぬかといった課題は私たちの肩にのしかかってくるのです。
高齢者が少数であった時代の社会的制度やシステムではもはや通用しません。次世代にむけて新しい社会のデザインを考えていかねばならない。それを誰がどのように行うかが問われていると、菅原先生は問いかけます。
参加者からは、日本における安楽死や緩和ケアについての質問など時間が足りないほど、たくさんの質問がありました。
超高齢化社会マーケティング
次のセッションは、株式会社電通の「電通シニアプロジェクト」で主任研究員をされている斉藤徹氏をお招きし、超高齢化社会におけるマーケティングについてお話を頂きました。
斉藤氏は「超高齢化社会マーケティングー 8つのキーワードで攻略する新・注目市場の鉱脈」などの数々の著作や論文のあるシニア市場マーケティングのスペシャリストで、多角的かつ幅広い分野をカバーされておられます。
講義では、「高齢者」のイメージが質的な変化を遂げていることについて説明がありました。いわゆる団塊世代が高齢者となるにつれ、健康・活発・おしゃれを志向するシニアが増えてきているとのこと。インスタグラムで有名なbonとponの事例や、メーカーやサービ事業者の商品開発や広告宣伝に反映されている具体的な事例の数々を紹介いただき、参加者にもとてもわかりやすいものでした。
一方、こうした高齢者を対象とする市場が拡大してきており、従来は行政や福祉の分野であった公共サービスや支援を民間事業者がビジネスとして捉え直す機運が生まれてきているとのこと。一人暮らしの高齢者をターゲットにした不動産仲介ビジネスなど、従来は注目されなかった分野に新しいビジネスが生まれ始めている状況があるとのことです。
社会の担い手としての政府、民間、非営利の従来の役割を見直し、高齢者の多様なニーズに対して民間事業者がコミュニティと連携しながらイノベーションを模索することの重要性を指摘されており、大事な洞察を参加者に与えて頂きました。
プロジェクト・キックオフ
本プログラムでは、参加者は個人での学びに加えて、チームとなって学習を深めるグループワークのプロジェクトが用意されています。昼食の時間をはさみ、そのキックオフのセッションを行いました。
グループワークは、参加者を4つのグループに分け、それぞれがスポンサー企業1社を担当し、提示された経営課題についてソリューションを考え、最終日に担当する企業の経営者に対してプレゼンテーションを行うものです。
今回は、昨年に引き続き、高級高齢者向け賃貸住宅の開発と運営をされているオリックス・リビング株式会社と訪問看護事業を展開するホウカンTOKYOの2社がスポンサーになってくれました。
キックオフでは一橋ICSの講師陣(伊藤先生、古賀先生、古川)よりプロジェクトの概要、スポンサー各社の簡単な紹介と課題の説明、成果の評価方法について説明しました。
スポンサーの2社には対象的な企業を選択しています。オリックス・リビング社がオリックスグループという大企業に属するすでに確立した事業を運営しているのに対し、ホウカン東京社は2017年に設立したスタートアップ企業です。
介護や看護という共通する部分もありますが、企業規模やターゲット層、収益構造やマーケティングのアプローチなど、さまざまな点で異なり、対比することができます。参加者には両方の視点をもつことで、日本の高齢化社会の課題と機会の一部を立体的に把握してもらうことを期待しています。
ホウカン東京ビジネスサービス
キックオフの後、ホウカン東京ビジネスサービスの取締役で創業者の一人である河田浩司氏を教室にお招きし、同社の事業の紹介と提示されたお題の説明をしていただきました。ホウカン東京は、現在7つの訪問看護ステーションを運営する訪問看護のフランチャイズビジネスを展開しています。
その核となるのは、自社で直営する5つの訪問看護ステーションでの運営ノウハウの蓄積とITを活用した事務所運営支援の独自開発システムです。事業の成長と拡大に伴う収益とコストと資金繰りのバランス、人材の確保や定着、顧客の満足度とスタッフのモチベーションの維持・向上など様々な課題に直面しています。
訪問看護の現場を参加者が直接見ることは難しいことから、訪問看護の様子をビデオ撮影し、動画を見てもらうことになりました。ホウカン東京の上池台ステーションにご協力をいただき、動画撮影と編集はTOKYO町工場HUBが行ないました。朝から深夜まで休みなく仕事をする訪問看護の仕事は過酷ですが、1軒1軒の訪問を心を込めて丁寧に行なっている姿を映すことができたように思います。参加者たちも動画で訪問看護の仕事ぶりを見て、一様に驚いていました。
質疑応答の時間は1時間を確保していたのですが、最後の最後まで質問が止まず、参加者の関心の高さを感じました。
オリックス・リビング社訪問
ホウカン東京のセッション終了後は、バスに乗ってオリックス・リビング社の運営するシニアハウジングのひとつ、横浜市にあるセンター南の物件を訪問。同社の森川悦明社長の出迎えを受け、オリックス・リビング社の理念と事業内容のプレゼンテーションを受けました。また、物件の中を見学させていただき、運営の様子を実際に見ることができました。
同社は、独立して生活できる高齢者の方々のためのプラテシアとサポートが必要なグッドタイムリビングという二つの種類のシニアハウスを提供されています。センター南では両方がつながる形で建設されています。中は高級感に溢れ、スタッフのサービスも心遣いも行き届き、まさに高級ホテルのような賃貸住宅です。
同社が最も大事にしているのは、ゲストの尊厳を守り、居住者が生き生きと日々の生活を送ることです。「よくする介護」の理念を掲げ、要介護度などによって型にはめる一律の介護ではなく、ひとりひとりの生活機能をよく見て、自立できる範囲を広げていく支援を最優先にしています。その理念が物件の仕様やデザインに反映され、多種多様な居住者のための活動の場づくりに生かされています。
同社では、ロボットや室内見守りのシステムなど、積極的に技術革新を取り入れているところも特徴です。外国人の介護スタッフを育成することにも力を入れており、参加者にとっては次世代の介護サービスや高齢者住宅のあり方にもついて様々な観点から考えることができる貴重な機会となりました。
セッション終了後は、参加者の一部は渋谷や銀座などに。あいにくの雨でしたが、夜の東京を満喫したようです。
一橋大学大学院 国際企業戦略研究学科(ICS)について
一橋ICSは、日本有数の国立大学として伝統ある一橋大学を母体とし、その精神を受け継ぐビジネススクールです。2000年、経営学教育のイノベーター集団により、全ての授業を英語で行う日本初のグローバルなMBAプログラムとして発足しています。教授陣には、野中郁次郎一橋大学名誉教授や数々のビジネス書でも有名な楠木建教授などが在籍されています。
Global Network for Advanced Management/Global Network Week
Global Network for Advanced Managementは、世界のトップビジネススクール30校により構成されるネットワークで、一橋ICSは、設立当初から日本を代表とする1校として参加しています。
本プログラムは、Executive MBAを対象にしたGlobal Network Week for EMBAの一環です。世界のEMBAの学生たちが、各国で開催される1週間のプログラムに参加するもので、一橋ICSは昨年から「超高齢化社会」をテーマに本プログラムを実施しています。
TOKYO町工場HUBは、一橋ICSの委託を受け、第一回目より本プログラムの講師陣の一員として企画と運営に関わっています。