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切削加工のできること、できないこと

切削加工では難しい「ピン角」のこと

切削加工とは、素材を削り取って形状を作りだす加工方法の総称です。基本的にはフライス系(汎用フライス、NCフライス、マシニングセンタ)と旋盤系(汎用旋盤、複合旋盤等)に分かれます。フライス系は主にブロック状のがっちりした形状に良く使われます。旋盤系は、基本的には同心形状の部品加工に使われます。

フライス系の代表格であるマシニングセンタによる切削加工では、刃物や加工プログラムの組み合わせ方で様々な形状を実現する事が可能です。その柔軟性と精密な加工を可能にする正確さで、航空機の構造部品や、医療、半導体など、様々な分野の精密部品にも、マシニングセンタで削った部品がそのまま使われたりします。

図1:切削加工が難しい「ピン角」の例

しかし、万能に見える切削加工にも、実現が非常に難しかったり、不可能な形状があります。その代表例が、内角部の「ピン角」です。ピン角とは、丸みのないエッジが尖った角部のことです凸形のピン角は特に問題ありませんが、切削加工は凹形のピン角を加工できません。

例えば、図1のような形状です。左の2つは2面に囲まれた内角部分です。右の例は自由曲面同士の境界ラインになります。理由は次の通りです。切削加工は、エンドミルを”回転”させて、任意の形状に動かす事で素材を削り取っていきます。エンドミルは横から見て先端が丸かったり、四角かったりします。しかし、これを上から見た場合、どんなエンドミルを使っても必ず円形に見えます。

何故かというと、”回転”しているからです。

このため、エンドミルを動かしていって折り返す部分は、必ず円弧状の形状が残る事になるのです。これを、隅アールなどと言います。小さいエンドミルを使えば、もちろん隅アールは小さくできます。ただし、隅アールゼロ = ピン角にはできないわけです。

試しに上のピン角の例のうち、一番左の形状を加工しようとしてみましょう。そうすると、どんなにエンドミルの向きを変えて削っても、次の3パターンのいずれかの形状となり、隅アールが残ります。

隅アールの例 図2:隅アールの例

ピン角はどうしても必要な場合と、形状変更により回避可能な場合とで対処が変わってきます。設計変更により「ピン角」を回避する方法については、「設計変更によるピン角の回避」をご参照。

どうしても「ピン角」が必要な場合

それでも、どうしても「ピン角」が必要という場合には、キー溝加工を行ういわゆるスロッターと呼ばれる加工機やワイヤーカットという工法の他、型彫り放電加工機で加工することが一般的です。スロッターもワイヤーカットも、上記の例の形状のように、基本的には同一形状で表から裏まで”抜けて”いる場合に限ります。

図3:型彫り放電加工

型彫り放電加工機は、削りたい形状とは反転した形状の電極をまず製作し、それを近づけて電気の力で”じゅっ”と溶かすイメージの加工方法です。電極はグラファイトや銅が使用されます。

型彫り放電加工は、放電加工そのものに加え、電極を製作する手間が余計にかかりますので、コストが嵩みます。金型製作など、ピン角そのものに意味がある場合を除き、できる限りピン角を無くすように設計した方が良いかと思います。

 ※ 上記手法でも厳密にはR0.02~0.05程度の隅アールがつきます。

アンダーカットと呼ばれる形状

切削加工が苦手とする代表的な形状の代表例がもう一つあります。それは、アンダーカットと呼ばれる形状です。
アンダーカットとは、エンドミルが届かない”陰”になる部分にある形状です。素材の向きを変えれば加工できる部分であれば、段取り替えは必要になりますが加工可能です。言い換えれば、形状の外側にある窪みは基本的には加工可能と言えます。

ちょっと困ってしまうのは、例えば下の図のような形状です。どこから削ろうとしても手前の形状が邪魔をして、エンドミルが届きません。

切削加工:アンダーカット
図4:アンダーカットの例

 こういった形状の内側に窪みのある場合の対処は、次の通りとなります。

 ① アンギュラカッター、アンギュラアタッチメント・5面加工機での加工
 ② 型彫り放電加工機での加工
 ③ 設計変更(分割)

①はマシニングセンタでも特殊なエンドミルや特殊な仕様の加工機で加工するということです。アンギュラカッターは、刃が回転軸よりも横に突き出した形状をしていて、横に窪んだ形状を加工することができます。

アンギュラアタッチメントは、主軸に取り付け可能なアタッチメントです。これを取り付けるとエンドミルの向きを変えることができます。ただし、上の例のような場合、アンギュラアタッチメントも含めた部分を縦穴に沈めなければいけません。概ね150mm程度は入り込む隙間が無ければ使えません。

②は、前項でピン角の加工方法としても出てきましたが、こういったアンダーカットの処置としても使うことができます。ただし、電極の製作など、加工工数が増大しますので、コストが嵩む点も一緒です。

③は、アンダーカットのある部分を分割して、通常の加工で作れる部品の組み合わせとしてしまうという方法です。例えば下の図のような方法が考えられます。分割部品①と②に分けて、締結用のネジでとめるという方法です。部品の組立には、用途に合わせて溶接・接着、ネジ締結、嵌めあい・カシメなど適切な手法を選択します。

切削加工:分割の例
図5:分割の例

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