未来DESIGNという協創プロジェクト

TOKYO町工場HUBが参加している「未来DESIGN」プロジェクトが始動しています!未来DESIGNは、足立区のあだち異業種交流会「未来クラブ」が4年前から続けている「デザイン講座」から生まれたもので、「これからの、豊かな生活」をコンセプトに、作る側も使う側もワクワクするようなモノづくり・コトづくりを目指しています。

この未来DESIGNは、様々な分野のエキスパートが集結した協創プロジェクトですが、そもそも「協創」とは何でしょうか。

協創とは何か

「協創」という言葉は、一般的には聞きなれない言葉です。「協働」や「共創」といったような言葉は見たり、聞いたりするのですが、協創という単語をグーグルで検索しても、あまり多くの結果が出てきません。端的に言えば、様々な背景やスキルを持ったメンバーや関係者が力を合わせて、あるいは協力して、製品やサービスを創り出し、社会を変革させていくというようなイメージで語られていることが多いようです。

足立区では、平成29年度より近藤区長のリーダーシップの下、「協創力でつくる 活力にあふれ 進化し続ける ひと・まち 足立」を目指すべき将来像として掲げ、30年後を見据えた足立区の基本構想を示しています。

その基本構想をまとめた資料が、区のホームページに公開されています。本記事においては、この資料をベースにTOKYO町工場HUBが理解する協創の本質をここで提示し、未来クラブが推進中の協創プロジェクト「未来DESIGN」を事例にして、その実践的な適用と効果について、私見を述べたいと思います。

<参考資料>

足立区基本構想は、こちら(以下、基本構想)。

協創シンポジウム(平成29年1月28日開催)における近藤区長のプレゼン資料は、こちら(以下、シンポジウム資料)。

協働と協創の違い

協創の本質を考える上で、一番参考となるのは、シンポジウム資料の5ページ目と7ページ目にある図表です。ここでは、従来足立区が推進してきた「協働」と「協創」の対比が非常に明快に描かれています。

シンポジウム資料を参考に筆者が作成。

図を見れば、その違いは明らかです。「協働」とは、区を中心にした協力の体制である一方、「協創」においては中心が存在しません。区は他の関係者(ステークホルダー)と位置付けとしては同列になっています。これは一体何を意味するのでしょうか。

これは音楽の表現形式で例えるのなら、協働とは指揮者がいるオーケストラ、協創とは指揮者のいない室内楽であると言えます。筆者は、これをオーケストラ型コラボレーション室内アンサンブル型コラボレーションと呼んでいます。この差は、指揮者の有無以上の本質的な違いを内包するもので、それぞれの関係者、また関係者間の関係性に大きな変化が生じることになります。

指揮者がいるオーケストラでは、基本的には構成員は指揮者との1対1の関係の中で繋がり、相互の関係性も指揮者を通じて成立することになります(注:もちろん、オーケストラはそのように単純ではないのですが、わかりやすくするため単純化しています)。それぞれの構成員は自分の役割や位置付けを意識し、全体のハーモニーが響くことに細心の注意を払いますが、全体を調整するのは指揮者の役割であり、構成員は指揮者の設定した枠の外にはみ出ることはできません。ここで大事なのは良い意味での「指揮者との相互依存関係」であり、「統一性」です。強力なリーダーシップが良しとされ、その下でのチームワークという関係性が重視されます。

このような協力の形態は、うまく機能すれば大変効率が良いものとなります。全体の整合性は最終的には指揮者が行いますので、各構成員は自分の役割に集中できます。しっかり指揮者の振る指揮棒に従っていれば、全体が統一して整然とした音楽が奏でられます。

協創の本質

では、指揮者のいないアンサンブル型コラボレーションとは、どのようなものでしょうか。これは実際のところ、かなり効率という点では悪いのです。指揮者がいれば指揮者に合わせていれば基本的にはよかったのですが、指揮者がいないと誰にどう合わせていけば良いのか、自分が正しいのか間違っているのか、全体がきちんと音楽になっているかどうか、そうしたことが分かりにくくなるからです。

こうした立場に置かれると、大抵の人は不安に感じ、自分の仕事に集中できないので、パフォーマンスも悪くなりがちです。自由であるけれど、一般的に「自由」は「不自由」なのです。

アンサンブル型では、まずこの自由に慣れなくてはいけません。その上で、構成員それぞれが個性を発揮し、それぞれを認めてすり合わせながら、結果的にハーモニーが鳴り響き、音楽が出来上がって行くことになります。ここで大事なのは「自立」であり、「多様性を認める」ことです。

自立することで、真の意味で自由は自由になり、他の構成員と合わせながら、自分の個性を表現することができます。そうして育まれた個性の集まりには「統一性」はありませんので、お互いの多様性を認めることではじめて、ハーモニーというものが生まれることになります。個性を矯めた統一性ではなく、むしろ個性を包む包容力や相手を思いやる想像力をお互いに持つことで、音楽が成り立ちます。

これが協創の本質です。

なぜ今、協創なのか

音楽の世界においては、オーケストラも室内アンサンブルも、何百年も前からありましたが、現代社会において「協創」が求められているのは何故なのでしょうか。これには、社会の変化技術革新の二つの要因が影響しています。

現代社会は、多様化が進み、複雑で、変化が早く、将来を見通すことがいよいよ難しくなっています。このような社会において、一つの機関が全てのことを指揮し、また構成員を繋ぐことは現実的ではなくなっているのです。特に日本では少子高齢化が進み、グローバル化も進む中、対応すべき課題の数も複雑さも加速度的に増しています。各分野で専門性が必要とされる一方、分野は細分化され、その対応は従来の方法では手に負えなくなっているのが実情です。

指揮者が全体をコントロールすることが効率的ではなくなった以上、各構成員がそれぞれの分野で自立し、自由かつ柔軟に繋がり、多様な課題に取り組んで行く仕組みが求められるのは必然だと言えましょう。

もう一つの重要な要因は、インターネットを中心とした技術革新の進展です。

室内アンサンブル型の協創は、前述した通り、効率が悪いのです。オーケストラ型に比べ、大幅に時間とコストを要します。その最たるものは、相互のコミュニケーションにかかるコストです。オーケストラ型では、指揮者のみが「1対多」という関係で、その他の構成員は「1対1」の関係性で成り立っているので情報交換の効率が非常に良いのですが、室内アンサンブル型は全構成員がそれぞれ「1対多」という関係性でしか成り立ちません。

例えば、弦楽四重奏ではバイオリン2本、ヴィオラ1本、チェロ1本で構成されていますが、演奏中においてバイオリンの奏者は他の3名と常にコミュニケーションしていますし、同時に他の奏者も自分以外の3名とコミュニケーションを取っていることになります。いわば、コミュニケーションの総当たり戦をやっているようなもので、構成員が増えることで累乗的にコミュニケーションの量と複雑度が増します。従って、室内アンサンブルは少人数で構成する他はありません。人数が多くなるとオーケストラ型で対応するしか、現実的な方法はなかったのです。

しかし、このコストを時間的にも物理的にも革新的に低下させたのがインターネットです。インターネット上の様々なコミュニケーション・インフラが整備・普及したことで、従来は非常に時間もコストも掛かった室内アンサンブル型のコミュニケーションが格段に時間を節約し、低コストで容易なものになりました。協創を行うのに、多くの資金や人を必要とせず、一般の市民でも実現する条件が整ってきたのです。

こうした社会の変化と必要性、複雑なコミュニケーションを経済的に可能にする技術革新により、現代において協創というコラボレーションのあり方が求められているのでしょう。

協創プロジェクト「未来DESIGN」

さて、あだち異業種交流会「未来クラブ」が推進する「未来DESIGN」は、足立区が掲げる協創を実践的に行うプロジェクトであり、様々な事業、スキルや背景、年齢をもつメンバーで構成されてます。TOKYO町工場HUBは、ビジネス・プロデューサーという役割を担うべくメンバーの一員として参加しており、ここではメンバーの一員として実際に活動に参加している立場から、一事例として紹介したいと思います。

なお、以下の記述は、あくまでも筆者の私見であり、未来DESIGNを代表するものでも、総意を示すものでもありません。メンバーの中には、全く違う意見をお持ちの方もいてもおかしくなく、それこそが協創の醍醐味でもあります。

「未来DESIGN」の母体は、「デザイン講座」です。未来クラブのメンバーでもある有限会社スタッフデザインアソシエイツの代表取締役である田口英紀氏(インダストリアル・デザイナー)の呼びかけで四年前に開始された勉強会で、月に1回メンバーが集まり、田口先生を中心にデザインとモノづくりのあり方や、人々のニーズやウォンツに耳を傾けて新製品を考え、それを売っていく手法などを、ケーススタディやワークショップを通じて学び合う講座です。

メンバーの数は10名を超え、その構成は多様です。ものづくりを行う町工場の経営者が多数を占めますが、多種多様な金属加工、アクリル加工、印刷加工、ダンボール加工、革製品加工など幅広い業種をカバーしています。それに加え、工業デザイナー、マーケター、WEB製作者、週末発明家、あるいはTOKYO町工場HUBのようなビジネス・プロデューサーが混在しています。男女平等、年齢は30代から70代まで多世代が集まり、さながら梁山泊風のサロンのようなグループになっています。女性と高齢者(65才以上という以外の意味はありません)が非常に元気で、なんともオシャレなのが特徴です。

このデザイン講座の2018年の年初において、主要なメンバーであるミユキアクリル小沢頼孝会長が示した「今年は白黒をつけよう!」という発言から未来DESIGNの胎動が始まり、「これからの、豊かな生活」というコンセプトを掲げて、この新しい協創プロジェクトが誕生したのです。

協創の生み出す創造力

未来DESIGNには、協創が協創であるための諸条件が整っています。まず指揮命令系統がありません。それぞれが自立した経営者や事業家なので、ある意味「だんご三兄弟」の長男のように「自分が一番」と自負している個性豊かなメンバーの集まりですが、お互いのカバーする領域がほとんど被らないので、常に相手のやっていることに対して自分は素人という立場になります。こうなると各自の役割分担は明確になりますので、西郷隆盛ではないですが「お主に任せた」としか言いようがないところで、それぞれが自分の役割を果たして持ち寄ることになります。

協創に必要な多様性も、未来DESIGNの大きな特徴です。これは端的に「外へ外注することがほとんどない」ということに現れています。以前、「この会の活動資金はメンバーの持ち出しですか」と外部の人に聞かれたのに対し、「自給自足」ですと回答したことがありますが、それを可能にしているのは、素材としての各メンバーの個性やスキルが十分に分散し、レベルが高く、設備も含めて整い、充足していることです。内部では、それぞれのメンバーが何らかの形でグループなり、個別のメンバーに貢献しています。これにより、コスト(現金)を最小限に抑えつつ、外部に製品なりサービスを有料で提供することが可能になっているのです。

最後に、未来DESIGNの協創である条件の中で最も重要とも言えるのが、社会に対するアウトプットを志向していることです。それは製品やサービスの販売ということはもちろんですが、足立区内外の人々に対して、夢であったり希望であったり、「これからの、豊かな生活」というコンセプトを製品に乗せて表現し、伝えようとしているところに、未来DESIGNが協創プロジェクトとして存在する価値があります。

しかもそれは何か「正しいことをしよう」というような「マジメ」なことではなく、まず「カッコいいことがしたい!」(株式会社トミテック 尾頭恵美子社長)というワクワクする気持ちがあり、共感という自然な思いで繋がっているところが、素敵なところです。

協創のエンジン:共感できるという信頼感

4月7日(土)と8日(日)の二日間に渡って、足立区の舎人公園で開催された千本桜まつりで、初めて未来DESIGNのお披露目をしました。天気も気候もよく、大勢の方々にお越しいただきました。

今回はあえて参考出品として、実際に販売することを目的とせず、来ていただいた方々に製品を見ていただき、活動の内容を伝え、フィードバックをいただくことに重点を置くことにしました。未来DESIGNのロゴ、パンフレットやのぼりのデザイン、ブースのデザインは、メンバーである井島正人氏が担当し、白と黒を基調にしたクールでとても格好いいものに仕上がりました。メンバーのお揃いのジャンパーも井島氏の作品です。

展示したのは、田口英紀氏やプロダクトデザイナーのサワノ エミさんが特別にデザインしたパッケージで装いを新たにした各メンバーの既存製品がメインです。どれもこれも素敵なデザインで、素直にこのワクワク感を伝えたいと思うものばかりで、訪問いただいた皆さんにもその気持ちは感じて頂いたようです。週末発明家の波積えつ子さん(夢工房はづみん)のダルメシアン模様のマナーバッグは特に心を惹かれた方が多く、非売品であったにも関わらず、売り出してみるとあっという間に在庫がなくなってしまいました。

展示用のディスプレーは、田口氏とサワノさんがデザインし、パッケージアート株式会社小林正彦氏が製作したもので、100キロの体重も支えるダンボール椅子とともに大好評でした(今後、商品として開発予定)。

実際に準備段階から関わってみて実感したのは、協創というのは強力な中心を持たないだけに、お互いの共感する力が推進のエンジンになるということです。「俺は楽しいことしかやらない」という信条を持っている株式会社安心堂丸山寛治会長(未来クラブ会長)の言葉に表されるワクワクする思いにメンバーが共感し、信頼しているところで成立しているものです。

また、相互の連絡を円滑にするために、インターネットを活用したコミュニケーションのプラットフォームをデザインラボ阿出川博氏が構築し、それぞれが本業で多忙な中、情報に取り残されることなく一体感を持って仕事を進められたのは大きな成果でした。

未来DESIGNの未来

今後、未来DESIGNをどのような方向に向けて舵をとるのかは、まだまだ議論していく必要があり、様々な仮説を立てては試し、成功や失敗から学びながら、中長期的に一つのビジネスモデルを構築していくものと思います。

ただ確実に言えることは、協創の輪を広げていく努力は必要だということです。私たちがこれから直面する多種多様な社会的な課題に取り組み、未来の子供達に魅力的な世界を残していくためには、一つや二つの機関やグループでは全く足りません。社会の様々な組織や団体、あるいは個人でも、それぞれが自立し、お互いの多様性を認め合い、これからの豊かな生活へ向けて協創できる社会づくりが必要です。その土台づくりに、少しでも貢献したいと思います。

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