葛飾区の伝統職人を訪問

食文化とものづくり

TOKYO町工場HUBは、葛飾区の伝統産業の新しい市場を開拓すべく様々な活動に取り組んでいますが、この度、料理研究家の大瀬由生子先生と共に、食文化と伝統産業をテーマにした新事業の企画を練るために、有限会社サガラ(手作りのたわし製造)と八重樫打刃物製作所(刀鍛冶の伝統を引き継ぐ)を訪問、新しい製品開発の可能性について話し合いました。

本事業は、葛飾区の伝統産業には「食」に関連する製品が多いことに気付いたことから始まりました。たわし、包丁、おろし金、ガラス食器(切子、サンドブラスト)、銀食器、箸などです。こうした伝統的な食器や道具は、私たちの日常生活で使われ、日本人の食文化を支えてきたものです。しかし、産業としては残念ながら衰退傾向にあります。

大瀬先生は、糀による発酵食品を中心に、日本の伝統的な食文化に造詣が深く、幅広い活動に取り組まれています。伝統的な製品を単なる道具としてバラバラに見るのではなく、日本の食文化という文脈(コンテキスト)の中でつなげて見直すことで、新しい価値が生み出されたり、新市場の展開が見えてくるのではないか。このアイデアを先生にご相談し、コラボレーションが実現したものです。

手作りの棕櫚たわし

有限会社サガラは、日本でも極めて希少なたわし職人で、棕櫚(棕櫚)製のたわしを手作りでひとつひとつ丁寧に作っています。厳選され、切り揃えられた棕櫚の繊維を2本の針金に挟んで束ね、機械で全体を捻りあげた後、手で折り曲げてたわしの丸い形にします。単純な作業に見えながら、非常に微妙な力加減が要求されるそうで、まさに職人技というにふさわしいもの。品質の違いは、触れば誰にでも分かります。これが同じたわしなのかと驚くほど。

しかし、日本の生活の中でたわしの存在は忘れ去られようとしています。実際、子供たちにたわしのことを聞いても、知らない子が多いほどです。品質の悪いたわしが出回って、悪貨が良化を駆逐するように、良質のたわしへのニーズは消え入るばかりのようです。

日本人の手に馴染み、水を含ませれば柔らかく、野菜などを洗うにも最適で、スポンジのように中で細菌を繁殖させないなど衛生面でも利点があるたわしは、日本の食文化に必要な道具の一つとして、これからも残すべきではないかと考えています。

伝統的な刀鍛冶

次に訪問した八重樫打刃物製作所は、刀鍛冶の伝統を引き継ぎ、今も鋼を火に入れて、大きなハンマーで叩いて鍛える方法で包丁や職人のノミや彫刻刀などを制作しています。ふいごで炉に空気を入れて火力を調整、正確にハンマーを打ち付ける姿は、勇壮という他はありません。

鍛えられた包丁は研磨され、切れ味鋭い、非常に美しい形に仕上げられます。製品はデパートなどで売られていますが、伝統的な鍛冶屋さんは日本でも少なくなっており、全国から注文が来るそうです。現在、二人のお弟子さんが刀鍛冶の伝統を引き継ごうとされており、修行に励んでいます。

今回の目的の一つは、子供用の包丁を作りたいという大瀬先生の希望を叶えることです。普及している子供用の包丁は、怪我をしないようにわざと切れないように作ってあるけれども、逆に余計な力を入れなくてはいけないので危ない。自然な力で切れる包丁を作り、子供たちが大人になってもペティナイフとして、長く大事に使えるようなものを与えたいというアイデアでした。

このアイデアを八重樫さんに相談したところ、試作品を作ってみると、引き受けて下さりました。

本事業は、TOKYO町工場HUBが目指す価値創造の本格的な取り組みのひとつとなります。大瀬先生とともに、日本人の食文化という物語を紡ぎながら、伝統産業の新しい価値を創り出すことに貢献したいと思います。

FOOD LIFE SCHOLARS

フード・ライフ・スカラーズ

フード・ライフ・スカラーズ(Food Life Scholars)は、料理研究家の大瀬由生子先生とTOKYO町工場HUBのパートナーシップで展開する「食」と「ものづくり」をテーマにした新しい事業です。

人類にとって「食べること」と「ものを作ること」は密接不可分な関係にあります。私たちは食べるために道具を発明し、長い年月をかけて経験や技術を進化させてきました。その進化の先に文明が生まれ、食文化が発展し、現代へとつながってきています。そして、日本人には日本人の、現代には現代の食文化があるのです。

新しい価値観や社会のニーズに応えつつ、伝統的な食文化に現代的な価値を見出して、今の日本人にとっての食文化を「食」と「ものづくり」の視点から見直し、今の時代にふさわしいモノやコトを提案します。それはまた、これからのライフスタイルを考えることにもつながっていくでしょう。