Shiina Factoryという冒険(前)

事業転換という冒険

ものづくりを70年間続けてきた工場であっても、請負の仕事をきちんとこなすことと、自社のオリジナル製品を製作して自らメーカーとなることの間には、たとえ扱っている製品が同じであっても、そこには超えがたい大きな谷があります。

それはまさしくトランスフォーメーションというものであって、事業の多角化や改良改善という次元を超えて、根本から事業を転換させるものです。挑戦と言うのでは少し柔らかいような気がします。むしろ「冒険」という言葉の方がふさわしいのかもしれません。

足立区のアクセサリー専門の金属加工会社である有限会社椎名製作所が挑んでいるのは、まさにこの冒険です。下請けに依存していた事業から脱し、自らブランド(Shiina Factory)を立ち上げて、メーカーとして自立することを目指して事業を再構築しています。TOKYO町工場HUBは、椎名製作所の事業パートナーとして、この事業転換の最初の一歩から一緒に歩んでいます。

変化へ向けての土台づくり

TOKYO町工場HUBが、椎名製作所のパートナーになった理由はいくつかありますが、一言で言えば、事業の面白さや成長性に大きなポテンシャルを感じたからです。その思いは、現在に至るまで薄れることはなく、強まるばかりです。初めて工場を訪問した時に、宝の山のようなところだと感じたことを忘れません。その思いは今も全く変わりません。

2018年の春から始まったこの冒険は、時間をかけて事業のコンセプトを温め、ブランドを立ち上げることの意味や意義を話し合い、実験的な試行錯誤を繰り返してきました。その間に、市場の調査を行い、仲間を少しずつ増やし、創業以来初めてホームページを立ち上げ、3回に渡って大幅なリニューアルを行うなど、土台作りにじっくり時間とリソースをかけてきました。

大事にしていたのは、考え方や気持ちを前向きに変化させる小さな努力の積み重ねです。

一歩踏み出せば課題ばかり

事業を転換するということは、決して生易しいことではありません。従来のやり方を変えて、新しい市場に挑戦するということは、起業家が何もないところからスタートアップを立ち上げる以上に困難なものかもしれません。その壁となるのは、人や資金などのリソースの不足以上に、長年染み付いてきた考え方を変えることの難しさであり、未知な世界に飛び込むためのコミットメントや自信の欠如です。

新しいことをしなくてはならないと分かっていても、実際にその変化の淵に立つと、なかなか本気で一歩が踏み出せません。過去の事業の勢いが失われ、これからの先行きが見えない日々を長く経験していれば、そもそも新しいことを始めることへの不安があり、自信を持つことは並大抵のことではありません。勇気のいることです。

実際、事業を転換すると言っても、見えてくるのは課題ばかりです。動けば動いたで、成果を出せずに、焦りと不安で気持ちは押しつぶされそうになります。「無理だ」と何度も自信を喪失します。成果も出口も見えない状況に、社内の理解を得ることもままならず、仲間も去っていくこともあります。

魅力を見える化する

では、どうすれば良いのか。ゴーンさんのように、外からやってきて、大鉈を振るう方法もあるのでしょうが、普通はできません。私たちにできるのは、足元をみつめ、課題と向きあい、希望を打ち砕かれない程度に継続して動き、毎日の小さな成果を大事に積み上げて、少しずつ前進し、土台を築くしかないのです。時間をかけて。三歩進んで、二歩下がるような日々に腐らずに。

TOKYO町工場HUBが最初に手がけたことは、それまで同社になかったホームページを製作することでした。しかし、ホームページができるということ以上に大切にしていたのが、仕事の風景の写真でした。もちろん、プロのカメラマンではないので、質としての良さには限界があるのですが、少しでも魅力的なところをきちんと見えるようにしたいと考えました。

自分のことは、良くも悪くも見えないものです。特に自信を失っている時には、良さが見えません。当たり前のことと見過ごしてしまう。ところが第三者の目から見ると、見えないところが見えてくる。人に見せるというよりも自分たちのために、椎名製作所の魅力を写し撮りたいと思いました。小さなことですが、気持ちを変えるきっかけにもなります。それに楽しい作業です。

転機となったワークショップ

椎名製作所にとって大きな転換点の一つになったのは、自社で指輪制作のワークショップを開始したことでした。椎名社長の提案です。これは新たな顧客層として考えていたアクセサリーの作家やクリエイターの方々を対象に、金属加工の様子を知ってもらい、ワークショップを楽しんでもらうことで椎名製作所のファンになってほしいと期待して始めたものです。これが私たちの想像を超えて、希望をつなぐ大きな意味を持つようになりました。

毎月1回のワークショップは土曜日の午後に開催していますが、開始から終了まで最低でも5時間はかかる本格的なものです。定員は3名で、職人がほぼマンツーマンで対応して参加者の自由な制作をサポートします。この参加者との関わりが、じわじわと固まっていた気持ちをほぐしてくれて、私たちに希望の光を差してくれました。

参加者のフィードバックに支えられて

それはなぜかと言えば、参加者の方々が心からワークショップを楽しみ、喜んでくださるからです。1年半の間、毎月続けていますが、この参加者からのポジティブなフィードバックが、私たちが前に進む自信と勇気を与えてくれています。実際、自分たちの仕事が人に喜んでもらえると知ることほど、嬉しいことはありません。

こうした希望の光に支えられて、次のステージに進む心の準備ができてきました。課題は相変わらず山積みですが、自分たちのやっていることは間違っていないのだと、自信を持って思えるようになっています。

いよいよ港を出て、出航です。

(続く)

Shiina Factoryは、2020年にも様々な機会で展示会に出展する予定です。ぜひ、お立ち寄りください。

【出展予定】
2020年3月28日(土)-29日(日):
minne ハンドメイドマーケット
https://minne.com/handmade-market

2020年4月4(土)-5日(日)
舎人公園千本桜まつり2020

2020年4月5日(日):
トレジャーマテリアル
https://www.treasurematerial.com/

2020年4月28日(火)-30日(木):
Handmade Makers’ 2020
https://makers-jp.com/

TOKYO町工場HUBは、有限会社椎名製作所の事業パートナーとして、同社の事業をプロデュースしています。現在、アクセサリーパーツ・メーカー「SHIINA FACTORY」とアクセサリーやインテリアの金属加工OEMサービス「ART SMITH」の二つのブランドを新しく立ち上げ中です。詳しくは、こちら。