TOKYO KEYBOARDプロジェクト #2

筐体の制作

TOKYO KEYBOARDの制作にあたり、最初に検討したのが、筐体の素材です。アルミやバルカナイズドファイバーなど、様々な素材を検討した結果、最終的に落ち着いたのが透明なアクリル樹脂。アクリルは透明度が非常に高い上、耐久性や耐衝撃性に優れ、かつ軽量で加工しやすいというメリットがあります。

アクリル樹脂の透明性を生かし、きれいな模様が描かれた基板を真ん中に、上下に分かれた筐体で挟み込むような形でキーボードを組み立てることにデザインは落ち着きました。このアクリル加工にあたっては、足立区の株式会社オーエムさんに相談し、請け負っていただくことになりました。

株式会社オーエム
株式会社オーエムの専務取締役 大村賢二さん。

株式会社オーエム

オーエムさんは、創業90年の老舗で、樹脂加工の高い技術力と経験を持っています。特に精密な樹脂の切削加工に優れ、寸法精度10ミクロン台での精密加工が可能。医療機器や通信機器の精密部品などを幅広く手がけるなど、高い評価を受け、足立区の認定する足立ブランドにも選定されています。

http://adachi-brand.jp/certified-company/ohemu

樹脂の切削加工は、製品をひとつひとつ削りだす作業です。素材、形状、表面処理の程度など、様々な要望に丁寧に応えてくれます。機械にセットすれば出来上がるという単純なものではなく、気温や湿度、素材の状態などの変化に応じて対応する必要があります。培った長年の知識や経験があってこそ可能な仕事。そこには作り手の思いや歴史が反映されます。

TOKYO KEYBOARDにとって、オーエムさんは掛け替えのない魅力を加えてくれました。

株式会社オーエム
オーエムさんの工場の様子。90年の歴史が今も生きています。

切削加工と射出成型加工

樹脂の加工法には、切削加工の他、射出成型という方法があります。射出成型とは、樹脂を加熱して溶かし、金型に送り込んだ後、冷やすことで目的とする形を作り出す方法です。製造のスピードが早く、大量生産するのに向いています。難点は高価な金型を制作する必要がある点です。少量生産では単価が非常に高くなります。 一方、切削加工はひとつひとつのパーツを丁寧に削り出します。高度な技術が必要となりますが、精度の高い切削を行うことが可能です。また金型を作る必要がないので、少量生産に向いています。難点は単品あたりの制作時間とコストが射出成型に比べて高くなることです。

切削加工の難しさ

専務取締役の大村賢二さんに図面を見てもらい、細かい点を相談しました。アクリルの切削加工にあたっては、いくつか注意すべき点があります。一つは切削加工や研磨という加工方法に伴う技術的な制約。もう一つはアクリル樹脂という素材特有の難しさ。

切削加工は、ドリルを使って削ることから、例えば包丁のように上下運動や水平運動で切りだすのとは違い、刃物の回転運動で物体を削り取ることになります。そのため、切削加工特有の制約が出てきます。例えば直角に削りだすのに、ドリルの半径分だけ削れないところができてしまうなど(隅アール)。大村さんからは、いくつかの難点を指摘されてデザインに反映することにしました。

この辺りの技術的な考証は、小川製作所の小川さんのブログに詳しいので、ご関心のある方はこちらの記事をぜひご覧ください。

切削加工のできること、できないこと

試作部品1号の出来上がり

新型コロナ感染の拡大によって、緊急事態宣言が出され、ものづくりの事業者にも少なからぬ影響が出始めている中で、オーエムさんが最初の試作品を完成させてくれました。

出来上がったきた部品は、予想以上に素晴らしいものでした。透明度の高いアクリル樹脂の魅力を引き出し、非常に丁寧かつきれいに形が掘り出され、触った瞬間に品質の良さを感じる出来栄えです。アルビンも思わず「Wow!」と驚きを隠さず、喜んでました。

TOKYO KEYBOARD
試作品第一号の出来栄えを眺めるアルビン。

表面処理・研磨の課題

一方、技術的な課題も明らかになりました。アクリル樹脂の平板であれば研磨はやりやすいのですが、凹凸のある形になると、端の方では研磨ができないところが残ります。つまりそこには切削加工に伴う削り跡が残ってしまうのです。

これをどうするか、色々と試行錯誤し、ディスカッションを行いました。無理して研磨するとアクリルが溶けてしまう。コーティングでも難しい。薬剤も適当なものがない。そこでひとつの可能性として出てきたのが、ブラストという手法です。砂などの細かい粒子を吹きかけて表面を削る方法。

葛飾区には、サンドブラストという技術を使い、素晴らしいガラスの工芸品をつくるマツウラブラストさんがあります。葛飾区の伝統工芸士にも認定されている伝統職人さんです。まずは、ここに相談することに決めました。砂を吹きかけることで、削り跡を消すことを期待して。