TOKYO KEYBOARDプロジェクト #3

研磨という技術

研磨という工程には、様々な種類があります。対象とする素材や形状、求める研磨の精度によって、最適な方法を選択します。美観のために表面を磨くことから、医療機器などの精密機械の部品では、ミクロン単位での研磨の精度を要求されます。研磨の世界は非常に奥深いのです。

 アクリル樹脂を研磨するには、高い技術が要求されます。ひとつにはアクリル樹脂が熱に弱いという性質があるため、研磨に伴う高い摩擦熱には耐えられず、やりすぎると溶けてしまうことがあります。また、金属やガラスに比べて傷つきやすいため、研磨の加減を間違えると取り返しがつきません。微妙なさじ加減が必要で、機械では自動化できず、今でもひとつひとつ熟練の職人が手作業で行うほかはありません。

金属の研磨については、小川製作所さんのホームページをご参照:

研磨

マツウラブラスト
サンドブラスト機で作業する松浦健二さん

サンドブラストという技術

TOKYO KEYBOARDの研磨についても、アクリル樹脂を研磨する上での課題に直面。オーエムさんの切削の精度や日本製アクリル樹脂の高い透明度を際立たせるためには、削り跡をどうにか取り除きたいところですが、どうしても研磨できないところが残ってしまいます。

その解決策としてアイデアに上がったのが、サンドブラストという手法です。サンドブラストとは、砂などの細かい粒子を高速で物体に吹き付けて、表面を削る技です。吹き付ける粒子の素材や大きさ、吹き付けるスピードや長さなどを微妙に調節して、形状の削り出しや研磨を行います。特に、ガラスの表面に細工を施すのに適しています。

この方法によって、普通の研磨方法では届くことができなかった箇所を磨き、切削加工の削り跡を取り除こうというアイデアです。難点はサンドブラストでは表面の透明感が失われ、フロスト/曇りガラス状になることです。技術的な制約とデザイナーが求めるものとのバランスが要求されるところですが、ともかく試してみようということになりました。

マツウラブラスト
ひとつひとつの作業がとても丁寧。

マツウラブラスト

選んだのは葛飾区にあるマツウラブラストさん。ここは葛飾区の伝統工芸士として認定されている伝統職人の町工場です。サンドブラストの手法を使い、グラスなどのガラスの表面に精細な絵や模様を細工することを得意とし、その作品の美しさは高く評価されています。

ご相談のため工房に伺うと、社長の松浦健二さんと先代の松浦勝利さんが温かく迎えてくださり、まずはやってみようということになりました。オーエムさんに作ってもらった試作第1号を出し、それにサンドブラストしてもらいました。

サンドブラストは、密閉されたブラスト機の中に手を入れて、砂の吹き付け口に対象となる物体を手でかざし、削りたい表面を手加減で移動させながら行います。削るところと削らないところは、マスキングテープで分けています。外から見ているだけでは単純そうに見えますが、微妙な加減をコントロールし判断するのは、まさに熟練の職人技です。

マツウラブラスト
マスキングテープを貼るところ。粒子が細かいので、余計なところに入り込まないように、この作業も大事。
マツウラブラスト
細部まで確認するアルビン

新たな創造・未知の価値

出来上がった結果は、実に素晴らしいものでした。切削の削り跡が綺麗になくなっただけでなく、フロストされた表面のマットな感じが、アクリル樹脂の魅力を引き立てて、新しい質感が生まれました。アルビンが思わず「Amazing! Beautiful!!」と声を出したのも頷けます。

砂を使ったブラストに加え、さらにビーズの粒子をブラストすることで、触った時の指紋などの手垢がつきにくい表面処理もできました。

この結果を受けて仕様を変更。オーエムさんが研磨しやすい側面はきれいに研磨して透明さを残し、その他の部分はサンドブラストすることにしました。結果、透明な部分とフロスト感のある部分の対比できれいなコントラストができ、とても美しい仕上がりとなりました。

本件は、技術的な制約に対するソリューションが、結果的に新しい価値を生み出す良い事例だと思います。壁にぶつかっても、視点を色々と変えてみることで、新たな創造や未知の価値が生まれてくる。その創造力に応える奥深さを持つのが、東京の町工場です。

マツウラブラスト
先代の松浦勝利さんお気に入りの帽子。ダンディーな人たち。