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社会課題解決のためのプロダクトデザイン

A-MAP:第1回特別公開セミナー開催報告

足立区のスタートアップ支援プログラム A-MAP(TOKYO町工場HUB運営)第1回特別公開セミナーを開催しました。テーマは「社会課題解決のためのプロダクトデザイン」。ロンドンと香港で活躍するプロダクトデザイナー Andy Y.W. リー氏を迎え、2時間半にわたるセッションでしたが、20名の定員を超える多様な参加者が集まって盛り上がり、あっという間に時間が過ぎてしまいました。

左:講師のリー氏、右:通訳の熊本氏

セミナー内容

今回の内容は、社会課題を解決する製品やビジネスを新規に開発する際に、プロダクトデザイナーがどのような役割を果たすか(期待されているか)という点を、ボーダーレスに展開する国際ビジネスの文脈で理解してもらうことを目的にしました。

従来のモノづくりは、「何をつくるか、どう作るか」に重点を置いてきたけれども、現代においては「なぜ作るのか」を問うことなしには、ビジネスとして成り立たなくなっています。「なぜ作るか」の問いを掘り下げていけば、私たちはモノづくりが社会と密接につながっていることを見出すでしょう。地球温暖化や気候変動などの地球規模の問題から、家族の介護、子供の教育などの身近で切実なニーズまで、社会や私たちの生活が抱える様々な課題と向き合うことになります。

事例から学ぶプロダクトデザイン

そのような社会の変化を受けて、現代のプロダクトデザイナーは、製品の見栄えを考えるだけではなく、その製品が社会にもたらすインパクトを含めて考え、創造力を生かすことが求められています。しかも、様々なビジネス上の制約のなかで、それを考える必要があります。

カンボジア政府の要請でデザインした電動Tuktukは、いかにプノンペンの街の路上マーケットとそこに暮らす人々の生活を改善しうるのか。どのような設計上の制約や障害があるのか。その社会的なインパクトは、どのようなものか。

ケニアのナイロビ市に電動二輪車を導入しようとするアフリカのビジネスマンの意図は何か。その技術的・コスト的な制約は何か。社会で受容されるための諸条件は何か。

リー氏が実際に取り組んだ上記の案件を事例にしながら、社会課題解決のためのプロダクトデザインの現場を立体的に理解してもらえるようにセッションを進めました。具体的な事例で取り組んだ本人がデザインのプロセスを語ることは珍しく、非常に貴重な機会となりました。参加者には、ボーダーレスでグローバルな現代のビジネスの潮流の一端を肌で感じてもらえたのではないかと思います。

Andy氏がデザインしたEV TukTuk @ カンボジア

学生たちが参加!

セッションの途中でミニ・ワークショップも行いました。プロダクトデザイナーの立場で製品を考え、人々や社会との接点を考える体験をしてもらいたいと考えてデザインしたワークショップです。製品から離れて課題を考えることの難しさ、人々のニーズを製品と結びつける楽しさを感じてもらえれば幸いです。

今回は、足立区にある複数の大学から学生たちが多く参加してくれました。若い人たちが、ビジネスの第一線で活躍する経営者たちと接することは、お互いにとって学びが多いと思います。これからも若い人たちが勇気を持って参加してくれることに期待しています。

講師を務めてくれたリー氏、通訳を務めてくれた熊本薫氏、主催された足立区経済産業部の皆様に心より御礼申し上げます。

次回は、「スタートアップのためのファイナンス」をテーマに、10月26日(水)14時から第2回目の特別公開セミナーを開催する予定です。詳細のご案内は後日に。

講師

ARVenture Studio Limited
創業者/Director アンディY.W. リー氏

ロンドン芸術大学(Central Saint Martins School of Art and Design)で学び、香港理工大学でデザイン修士を取得。プロダクトデザイン・開発の第一線で25年以上にわたり活躍し続けている。競技用の水着から電動自動車まで幅広い分野で製品デザイン・開発に関わる。Audiovox、バンダイ、Phillips、Speed ,Timexなど世界の著名企業のプロダクトに携わってきた。ロンドンと香港に拠点を持つプロダクトデザイン事務所ARVenture Studio Limitedを設立し、現在に至る。

TOKYO町工場HUB
代表 古川 拓

京都大学法学部卒。バンカーとして日米で通算15年間勤めたのち、2004年に独立。創造力のある人材や優れた技術で社会課題の解決を促すソーシャルデザイン/プロデュースの道を進む。複数のスタートアップを立ち上げた企業家であるとともに、ベンチャーファンドの取締役、財団理事等を歴任し、国内外で活動してきた。2017年よりTOKYO町工場HUBの事業を始め、現在に至る。

2009年より2020年まで11年間に渡り、東京大学院新領域創成学科の非常勤講師として同大学院の環境マネジメントプログラム「持続可能な社会のためのビジネスファイナンス(全10回)」を教えた

スタートアップのための
足立ものづくり
アクセラレータープログラム2022

「足立ものづくりアクセラレータープログラム2022(A-MAP)」は、東京都足立区が初めて実施するスタートアップのためのアクセラレータープログラムです。TOKYO町工場HUBが、企画・運営しています。ハードウエアをメインにした課題解決型の新しい製品開発や事業開発に取り組むスタートアップ事業者に向けた支援です。

第一期となる2022年度は、様々な社会課題の解決に取り組むスタートアップ3社が選ばれました。これから半年間にわたるメンタリングと7回の公開セミナーが開始されます。