最終回:これからのものづくり
未来のものづくりを考える
東京の小学校からの委託で4回シリーズで行ってきた「10歳のためのものづくり学習プログラム」の最終回は、未来のものづくりをテーマに、ロボット開発のTEAM AISAACのリーダー三宅章太さんに人工知能とロボットについて話していただき、その後、TOKYO町工場HUBより「これからのものづくり」について話して、プログラムを締めくくりました。
ロボットを開発するということ
ロボットを開発するということは、どういうことだろうか。三宅さんは、まず児童たちに紙に点を一つ描いてもらいました。「鉛筆を高く持ち上げて、鉛筆が点に当たるように振り下げてごらん。」ちょっと難しそうだけど、子供でもやってみれば案外簡単にできてしまいます。「この動作を私たちが正確に行えるのはなぜだろう。どうやって小さな点に鉛筆の芯を合わせることができているのだろうか。考えると不思議ですね。ロボット開発は、そんな思考から始まるのです。」
人工知能は、人間にはとてもかなわない計算能力があるけれども、逆に人間が簡単に行うこんな動作がロボットにはとても難しい。何かを見て認識することもロボットには容易ではない。人間が膨大な量のプログラムを書いてロボットへの指示を出しても、たったひとつの書き間違えで正しい動作ができなくなる。だからロボットの開発は常に困難への挑戦。プログラムを書き、部品を1個1個作り、たくさんの時間を使い、本当に大変なことだけど、そこに楽しさもある。子供の頃に、そのロボットや機械への不思議さに魅了されてから、ずっとものづくりに魅了され続けている。そんな風に三宅さんは話してくれました。
三宅さんは、今回のセッションの内容を考えるにあたり、自分が子供の頃に聞きたかったことを思い出してみると言っていました。そんな思いが通じたのか、児童たちは熱心に話に聞き入っていたようです。
TEAM AISAACのロボットの実機も持参してくれて、児童たちがロボットに直接触れ、中身を見ることできて、大いに盛り上がりました。質疑応答にも答えきれないほどの質問が出て、とても充実したセッションになったと思います。
三宅さんの論文提出の時期と重なって、とても忙しい時期だったようですが、快く引き受けてくださり、本当に感謝しています。三宅さん、ありがとうございました。
これからのものづくり
最後に、今回のプログラムの締めくくりとして、TOKYO町工場HUBよりこれからのものづくりについて話しました。それは、ものづくりと密接に関わる私たちの生きる社会や地球環境の持続可能性ということを主題にしたものです。
このテーマを最後に話すことにしたのは、小学4年生が20歳になる2030年に世界の人口は85億人となり、さらに自分たちの親と同じ年齢になる頃には100億人に近づいていく、そんな時代を生きていく世代だからです。社会と地球の大きな変化を引き受けて、その次の世代に向けて様々な社会課題に立ち向かうのは、この子供達だからです。
私たちが手にしているものは、一体どこから来るのだろうか。そんな問い掛けからはじめました。金属は?プラスチックは?どれも降って湧いてできたわけではなく、地球の資源を使ってできていることを一緒に確認した後に、今の日本人のような生活を世界中の人がするようになれば地球はいくつ必要になるだろうかと考えました。
昔の日本人は、暑ければ打ち水をし、寒ければ皆で火鉢を囲む。自動車も電車もないから、飛脚が走る。地球の資源をあまり使わずに、効率よく生活し、社会は回っていた。
「では、江戸時代のような生活に戻れる?」そんな風に問いかけてみました。すると色々な意見が出てきましたが、「もう豊かな生活を経験しているので、戻れない」という児童の意見が出て、皆が納得したようでした。「そうですよね。江戸時代に戻れない。でも地球は1個しかない。では、私たちはどうしたら良いのだろう?」
この問いについては、簡単な答えはなく、世界中の人たちが一生懸命に考えていると伝えた上で、リサイクルやシェアリングエコノミーのことを少し紹介しました。1個しかない地球を大事にして、どうしたら皆が幸せになれるか。これが、これからのものづくりであるというメッセージを伝えて、プログラムを終了しました。
未来へ向けて
「発見!ものづくりJAPAN」というものづくりをテーマに1年間勉強しようと決めたのは、ほかならぬこの児童たちです。自由に自分たちで年間のテーマを決めて、学年全員でプロジェクト的に学習を進めるというプログラムで、子供達が自発的にものづくりを学ぶことを選び、結果的に本プログラムをTOKYO町工場HUBが企画することになりました。考えられなような不思議なご縁でしたが、何か運命のような気さえ感じていました。
最後のメッセージが、子供達にどこまで伝わったかは分かりませんが、食い入るように話を聞いている児童が数人いました。この子たちが、しっかり成長して次世代を逞しく切り開いてくれますように。
最後になりましたが、学校の先生方、保護者の皆さま、またプログラムの運営にご協力をいただきました町工場の経営者の皆様、株式会社ニコン様、三宅さん、関わって頂いたすべての方々に深く御礼申し上げます。
そして、最後までびっくりするくらい熱心にプログラムに参加してくれた児童の皆さんに、心から感謝と敬意を示したいと思います。あなたたちが、私たちのヒーローです。