第3回:町工場のものづくり
町工場の現場に触れる
小学校4年生のものづくりをテーマにした学習プログラムの第3回目は、東京の町工場と下町をめぐる終日の校外活動です。11月8日(金)、快晴の秋空のもと、全学年の生徒106名と引率者(先生と保護者)24名の合計130名を10グループに分けて、足立区と葛飾区の町工場を訪問し、葛飾柴又の街を見学しました。
これは東京の小学校の委託を受けて、TOKYO町工場HUBが企画・運営している全4回シリーズの学習プログラムの一環。一回目のオリエンテーション、2回目の大企業(株式会社ニコン)訪問を踏まえ、今回は日本のものづくりを底から支える町工場を訪れ、現場で働く人々との対話を通じて、ものづくりの奥深さに触れることを目的にしていました。
訪問先には14の企業や団体を厳選し、個々にご協力をお願いしました。伝統産業から最先端の金属加工まで多種多様な業種を組み合わせ、全体として子供たちがものづくりの裾野の広さや、多様な分野や業種で働く人々によって社会や経済が成り立っていることを感覚的につかんでくれれば良いと期待したものです。
訪問先
- 有限会社 菅原製本所(足立区)
- 岩城工業 株式会社(足立区)
- 有限会社 椎名製作所(足立区)
- 有限会社 坂巻製作所(足立区)
- 株式会社 トミテック(足立区)
- 有限会社 三幸(足立区)
- 東和 小川畳店(足立区)
- 有限会社 精工パッキング(葛飾区)
- きもの染色工房 ひょ(葛飾区)
- 株式会社 小川製作所(葛飾区)
- 佐柄たわし(葛飾区)
- 葛飾区伝統産業館
- 足立区役所
- 株式会社 トータルプランニング(足立区)
経営者との対話
今回の工場訪問で重要視したのは、経営者や働く人々との対話です。工場の設備や道具を見ることも大事ですが、ものづくりに関わる人たちの思いや考えに触れることこそが、本質的なものづくりや社会を知る学びの機会になると考えたからです。企画の当初からそのことを学校側とも話し合い、生徒たちにも事前学習をし、質問をきちんと考えてもらうようにお願いしました。訪問先の経営者の方々にも、その旨を伝え、ご準備をいただきました。
それぞれの工場での訪問時間は1時間程度で、工場見学と質疑応答を中心に内容を組み立てています。どの工場でも特徴のある体験を用意して頂きました。小川製作所さんでは高度な切削加工のビデオを用意してもらって技術の説明をいただき、椎名製作所さんではチャームをつないでアクセサリーを作ったり、着物染色工房の兵藤先生には手染めの様子を見せてもらったりと。また、小川畳店さんではい草のオブジェ、菅原製本所さんでは手製の和綴じのノート、精工パッキングさんでは同社のヒット商品ポレットなど、それぞれの工場で何かしらのお土産も頂いたようです。い草をもらった子供たちは取り出してはい草の香りを嗅いでいました。本当に嬉しかったようです。
子供たちの溢れる好奇心
工場訪問に加え、足立区を訪れたグループの一部は足立区役所を訪問し、ものづくり振興係の松岡係長のお話を聞くことができました。葛飾区では葛飾区伝統産業館を訪問し、展示されている伝統工芸を数々を見て、職人の方々と直接話す機会を持ちました。足立区のミユキアクリルでは、同社のアクリル製品を使ったワークショップも開いて頂いています。
訪問時の様子を聞くと、どの工場でも子供たちは好奇心を示し、たくさんの質問をしてくれたようです。質問の内容も、技術や設備のことから経営のことまで、実に多彩な質問が飛び交ったようで、経営者の方々も驚き、また感激されていました。中には「後継者はいるのか?」とか、「これからの事業展開は?」といったスリルに満ちた問いもあったようです。
実際、子供たちの好奇心は、とても強いものだと改めて実感しました。筆者は葛飾区の伝統産業である手作りのたわしをつくる佐柄たわしさんへの訪問を先導しましたが、工場での職人の方々への質問は途切れることなく、また質問の内容も「スポンジとたわしを比べた場合のたわしの利点は?」「たわしの材料となる棕櫚とパームは何が違うのか」「なぜたわし作りを続けるのか」といったもので、どれも的確で「知りたい」という気持ちに溢れるものでした。
20名を受け入れてくれたトミテックさんでは、訪問した子供たちの一人がたまたま同社の取引先のお子さんだということがわかり、その子が親に向けて書いた「トミテック訪問レポート」を取引先の方から見せてもらったそうです。内容が小四とは思えないほど濃く、その理解度に驚嘆されていました。
御礼
このようなプログラムのために、工場の業務を休止してご対応いただくということは、やはり簡単なことでなく、ご協力を頂きました皆様には心より感謝申し上げます。
おかげさまで、子供達にとって、非常に実りのある学びの機会になったのではないかと思います。岩城工業の岩城社長からは、「生徒さんたちはたいへん活発で、こちらとしてもやったかいがありました」とのコメントを頂きましたが、本当に貴重でありがたいことだと感じています。
工場訪問の後は、それぞれのルートを通って葛飾区柴又に集合し、江戸川の河川敷の公園でお弁当。ひとしきり遊んだのち、寅さんミュージアムと柴又帝釈天とその参道を見学してプログラムは終了しました。
追伸:苦労話
今回は異なる地域に散らばった10グループに分けた子供たちを全く別々のメニューで動かす上に、先生方や保護者の方々に引率をお願いする内容で、雨天時のプランBやCも検討に入れなくてはならず、非常に複雑で入り組んだプログラムでした。それをいかに誰でも理解できるシンプルな内容にまとめることができるかが成否を分けるポイントでした。実際、そのアレンジメントに非常に苦労しました。
安全を第一に考えながら、子供たち全員にとって最高の校外学習となるように何時間も何時間もかけてリスクを潰し、学びの価値を考え、ルートを下見し、協力をいただいた工場の皆さんとのすり合わせを行いました。当日用に、各グループのための10種類のタイムスケジュールと経路を書いたしおりを作成し、引率者に渡しました。
おかげさまで、前日までの雨が上がり晴天に恵まれて、葛飾柴又駅の上下のホームで全てのグループが同時刻に、予定通り合流した時には、心の中でひとり拍手喝采をしてました。
本プログラムの最終回は12月。次回はTeam Aisaacに未来のものづくりを語ってもらう予定です。