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DIVE IN TOKYO 2021 序

TOKYO町工場HUBは、東京観光財団の「ものづくりエキスパート」の任命を受けて、欧米豪の富裕層向け観光コンテンツ開発に取り組んでいます。このプロジェクトの2021年度に行った活動を題材に「ものづくり」と「観光」について掘り下げて考えていきたいと思います。今回は、連載記事の序に当たるものです。

ものづくりと観光

「ものづくり」と「観光」は、近いようで遠い関係にあります。あるいは、遠いようで、近いとも言えるかもしれません。観光対象として常に「モノ」はあります。国宝や重要文化財、各地の民芸品や産物など。伊万里焼や輪島塗のように産地が観光対象になることもあります。しかし、それらを作る「ものづくり」の仕事は、「見せ物」ではないのです。観光価値はあるが、一般的に観光向きではない。これをいかにバランスをとって、観光コンテンツに構築するかがチャレンジです。

生産したものを見せたり販売したりするだけなら単純ですが、好奇心の強い欧米豪の富裕層の人たちは「モノ」だけでは満足できず、その背景や歴史、作り手のストーリーまでを含めて価値としています。刀剣を好きな人が、それを作った刀匠に会いたいと願うのは自然なことでしょう。しかし、レストランで美味しい食事をしたからといって、厨房を覗かせて欲しいと願うのに似て、どこかで線引きは必要です。

「ものづくり」はまた、それだけで独立して存在している訳ではありません。文化的、歴史的、あるいは実用的な文脈の中に位置づけられて初めて、価値が生まれてくるものです。例えば素晴らしい和染の技術は、着物の文化や歴史の中で生きてくるものです、その奥行きや広がりの中で、本当の魅力が浮かび上がってきます。

しおりの序文

富裕層向け観光プロモーション業務の「ものづくりエキスパート」としての最初の任務は、東京観光財団やそのアドバイザーを対象に、1日の観光プログラムをプロデュースし、実行することでした。テーマは「東京のものづくり観光の引き出しを見せて欲しい」というもの。最先端の科学や技術から伝統工芸まで。ある意味、無茶なリクエストではありましたが、お応えしました。そしてプログラムを勝手に「DIVE IN TOKYO PROGRAM(東京深潜プログラム)」と名付けたのです。旅のしおりは、次の序文から始まります。

「ものづくり」という切り口から、東京の文化の断層を眺めてみたい。 江戸時代から続く400年の「伝統」と「革新」の文化の積層は、過去から未来へ向かって、今も絶え間ない対流を続けています。その対流する文化の流れを直に体験するのが「DIVE IN TOKYO TOUR」の目的です。 そこから垣間見えるモノやコトに、欧米豪の富裕層をも魅了する価値が発見されるかもしれない。その宝探しの旅でもあります。 DNAが生物の連続性を継承・発展させているように、科学や技術は過去から未来へ文化の連続性をつないでいます。継承されている無数の筋のひとつひとつは各々独立しているように見えながら、多種多様な文脈で交差し、新たな発展や変化を見せてきました。 本ツアーでは、この文化の断層やその対流を立体的にみるための二つの視点を用意しています。ひとつは「テクノロジー」であり、もうひとつは「美意識」です。異なる視点でありながら、東京の文化の底流では合い通じていることを見いだすことでしょう。そこに欧米豪の富裕層の心も動かす物語が埋まっているはずです。 「どんな引き出しがあるのか見せて欲しい」という皆さんからのご要望から紡いだ企画です。引き出しを開くと、さらに多くの引き出しが見えるような旅にできれば幸いです。 さぁ、潜りましょう。

ツアーの追体験

実際のプログラムは、2022年2月24日(木)と同年3月14日(月)に実施しました。実質1日半のプログラムでしたが、内容は濃いものでした。上記の「ものづくり」と「観光」を考える上での様々なヒントや学びが得られたと考えています。

そのプログラムのひとつひとつの内容を振り返りながら、「ものづくり」と「観光」について考える連載記事にしたいと思います。